実証と心をつなぐ交流と 「KANO」を観て感じたこと

山田寛

 台湾映画「KANO」を観た。1931年、日本統治下の台湾から甲子園の全国中等学校野球大会に出場し、準優勝した嘉義農林学校の実話である。

 当時そのまま、せりふの90%が日本語で、台湾の出演者も懸命に日本語を話している。日本人、台湾人、台湾先住民の若者が民族の壁を越え、心をつないで甲子園の夢に挑んだ。同じ頃、八田與一(はったよいち)氏が台湾南部に東洋一のダムと用水路を建設し、100万農民を支えた実話も盛り込んでいる。

 日本統治時代をこれほど前向きに描いた映画が、台湾で大ヒットし、甲子園は台湾からの日本観光のスポットにもなったとか。「日本の支配を美化するな」との声も出たが、若手の制作者らは、史実をそのまま伝えようとしたと反論した。その結果、特に若者たちに大きな感動の輪を広げたという。

 私も10年前、研究プロジェクトで台湾の世新大学と協力、「安全保障と対日意識」の世論調査を実施し、台湾の日本への親近感、信頼感が、若年層を中心に相当強いと実感した。

 「日本が好き」は44・6%、「嫌い」は30・0%。18~25歳の若年層は「好き」が73・1%に上った。「平時に日本が頼りになるか」では、「頼れる」42・9%、「頼れない」44・2%だが、若年層は「頼れる」が69・2%だった。「危機に頼れるか」では、「頼れる」31・3%、「頼れない」53・8%。若年層の「頼れる」は34・6%だった。

 映画でまた感動的なのは、嘉農が甲子園の観衆から、相手校を上回る大声援を受けたことだ。最初、記者会見で、先住民に野球ができるかという差別的質問をした記者が、その後一番の嘉農びいきになり、「天下の嘉農」と題する記事まで書く。日本人が人種差別DNAの塊ではなかったことが、画面から伝わってくる。

 今、左派は日本国内のヘイトスピーチを、右傾化、偏狭ナショナリズムの表れだと糾弾する。だから日本は難民受け入れの資格もないという投書が、新聞に載っていた。私もヘイトスピーチは絶対反対だが、今の日本のそれは中韓の反日への反動の要素が強いし、ごく一部だ。「だから日本は要警戒」論に直結させるのは当たらない。

 もちろん、日本統治の問題点、暗い部分からも目をそらすべきではない。現に、この映画の制作者は、嘉農活躍の前年に起きた台湾先住民による最大の抗日事件「霧社事件」を扱った映画も制作し、その際見つけた資料をもとに、「KANO」に取り組んだ。ただし、霧社事件の映画も実証的作品だ。

 2009年放送のNHKスペシャル「JAPANデビュー」が、日本は悪かったと強調したくて、博覧会で先住民を「人間動物園」として展示したなどと言い、台湾の人々の証言をゆがめて編集し、集団訴訟を起こされた。東京高裁段階で敗訴し、判決文で「日本の統治が台湾の人々に深い傷を残したと放送しているが、この番組こそ深い傷を残した」と決めつけられた。こちらは非実証的過ぎた。

 台湾人、特に若者たちが客観的、実証的に歴史を見、日本を見てくれるのは、うれしい。台湾は4年前の東日本大震災で最大級の支援をしてくれた。それに対し、時の政権は、翌年の追悼式典で、台湾代表を指名献花から除外した。心をつなげない交流だった。

 戦後70年の今年、非実証番組や心をつなげない交流は要らない。左派も右派も、中国も韓国も、実証的に70年を記念し、未来に向け心をつなぐ出発点としてほしい。

(元嘉悦大学教授)