北海道の「知らない」を発掘

 少子高齢化の進展で人口減少が進む北海道。JR北海道の路線廃止計画などで地方の過疎化進行が懸念される中、札幌市内の旅行会社が地方自治体の首長をバスガイドに地域の歴史や名所を案内する「首長バスガイドツアー」を企画した。ツアーに参加する観光客の評判も上々。このツアーを企画した札幌に本社を持つ中央バスグループの旅行会社シィービーツアーズの戎谷侑男代表取締役社長に、ツアーの狙いや北海道観光について聞いた。
(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)

20以上の自治体首長参加
身近に観光地・名所がたくさん

5月19日に新十津川町と雨竜町の2人の町長に、バスガイドをしていただいたそうですが、ツアー自体はどうでしたか。

戎谷 侑男氏

 えびすたに・ゆきお 1946年、滝川市生まれ。北海道中央バスに入社。1991年、中央バスグループの旅行会社シィービーツアーズ設立に関わり、2007年、代表取締役社長に就任し現在に至る。たきかわ観光協会副会長、NPO法人北海道遺産協議会理事、北の縄文道民会議事務局長など多数の公職を務める。

 5月19日のツアーは今年最初の「首長バスガイドツアー」でした。日帰りツアーで北海道央に位置する新十津川町と雨竜町を訪れました。新十津川町の熊田義信町長には、これまでも何度かバスガイドをお願いしていることもあり、ジョークを交えながら楽しくツアー客と交流していました。また、雨竜町の西野尚志町長は、バスガイドは初めての経験で緊張していたようですが、きちんと資料を揃(そろ)えてやって来られ、分かりやすく丁寧に町の歴史や産業について説明されていました。

 今回のツアー客は40人ほどでしたが、皆さん、喜んでもらえたと思います。というのも、このツアーはまず、札幌から浦臼町までバスで行きますが、そこから新十津川町まではJR札沼線に乗車するという列車の旅があります。JR新十津川駅では町民の方々が横断幕を持って迎えてくれるという歓迎ぶりでした。同町では地元の日本酒メーカー金滴酒造などを訪問し、そこで試飲会を行い、帰りには特産品のジンギスカンを土産に頂くというもてなしを受けました。

雨竜町での反応はどうでしたか。

 雨竜町への訪問は今回初めてですが、そこではリサイクルショップ「豆電球」、「ライスコンビナート」を見学し、道の駅「雨竜沼自然館」、辻井京雲ギャラリー「墨響」などを訪れました。同町は農業、特にコメの町ですが、「ライスコンビナート」ではツアー客が「米すくい」を体験し、すくった分だけ持って帰ることができるというプレゼントがあり、皆さん張り切ってすくっていましたね。また、「豆電球」は築60年の旧雨竜中学校舎を改築したもので、そこでは懐かしい古民具や廃材利用の木工品がきれいに並んでおり、店主の方もそれらを一つ一つ丁寧に説明してくれるという人間味あふれた場所になっていました。

 まさに異次元の世界という感じなのですが、まさか雨竜町にそうした場所があるとは思いませんでした。参加者の多くは札幌市民です。

今年は首長バスガイドツアーを15から20回ほど行うということですが、どのような内容になっているのでしょうか。

 まず、コースといえばJR札沼線に沿って走る国道275号線、いわゆる歴史街道としての沿線町村を巡る旅。それからJR日高本線沿いの町々を訪れる旅。そして日高本線とは逆方向の白老町、室蘭市さらに鹿部町と函館方面へ延びるコース。旭川・上川方面は東神楽町を訪ねるツアーがあります。

 新しいコースとして今年は、北竜町から北に進んで妹背牛、秩父別、沼田から朱鞠内湖(しゅまりないこ)のある幌加内町へのツアーを設け、それぞれの首長に登場していただく予定です。

 さらに、日高・十勝方面では2泊3日のスケジュールで浦河町、様似町、えりも町、広尾町の4町を巡るツアーを実施します。このツアーでは、それぞれの首長に町の案内をしていただきます。

 この他にも今年は、道東十勝管内の中札内村、北は上川管内の下川町などを訪れます。新たに自治体を発掘し、とにかく北海道の地方の良さをよく知っていただいてお客さまに楽しんでもらえるような企画を作っていきたいと考えています。

企画を作り出す上でのポイントといえば、どのようなものなのでしょうか。

 首長バスガイドツアーでいえば、一つはJR北海道に関連したものがあります。例えば、JR札沼線やJR日高本線は現在、廃線が論議されていますが、路線廃止になると地域を応援したいという側面から企画を作っています。また、それぞれの自治体の特徴を捉えながら、企画を作ることも重要ですね。例えば日高管内の平取町はアイヌ文化で有名ですが、トマトの里や山菜が豊富な町としても知られています。また、浦河町や静内町は競走馬が有名で、様似町ではジオパークが名所になっていますが、近年はカジカ汁に人気が集まっています。同じ管内でも風景が変われば町の香りも違いますし、そうした町の良さを企画に表すことができればと思っています。

北海道は現在、観光業を基幹産業の一つとして位置付け、外国人観光客を2020年ごろまでに、年間500万人にしようと計画を立てていますが、まずは道民が進んで地方の良さを知るために足を延ばしてみるということも大事ですね。

 政府は2020年までに、訪日外国人観光客を年間4000万人にすることを目標としているようですが、日本人がまず自分たちの国・地方の良さを知り交流観光として動き合う必要があると思っています。

 観光産業を伸ばすために、インバウンドだけでいくのは決して得策ではありません。なぜなら、どこかの国で一たび政情不安に陥るような事案が発生したら、即座に訪日外国人旅行者に影響が出て、観光産業はしぼんでしまいます。そうした経験は今まで何度もありました。従って、地方を対象とした観光産業を今こそ確立することが大事です。そういった側面からすれば、北海道の観光交流は、ほとんどなされていないというのが実情だと思います。

 北海道に住んでいても知らない町が、身近にたくさんあるのではないでしょうか。稚内や名寄の人は、函館や釧路に行く機会は少ないでしょう。北海道は観光エリアが道東、道南、道北、道央などと大きく分かれており、その間の交流が非常に少ない。そういった負の部分が解消されていけば、北海道の観光業はもっと伸びていくでしょう。そうしたところに少しでも私の仕事が役立てられればと考えています。