加速する沖縄と台湾の経済・観光・文化交流

台北駐日経済文化代表処那覇分処 蘇啓誠処長に聞く

台湾の製造業が相次ぎ進出、日台に息づく「惻隠の情」

 東アジアの安全保障環境が厳しさを増している一方で、沖縄と台湾の友好関係は地域の安定に寄与するだけでなく、経済発展にもつながる。今月20日に台湾の蔡英文総統が就任1周年を迎えるのを機に、沖縄と台湾の経済・観光・文化交流、現在の両岸(中台)関係などについて台北駐日経済文化代表処那覇分処の蘇啓誠処長に聞いた。(聞き手・豊田 剛)

台湾人観光客の女性が緊急出産、沖縄からも多額の寄付

加速する沖縄と台湾の経済・観光・文化交流

 ――昨年の台湾―沖縄間の人的交流の実績は。

 昨年、沖縄を訪れた外国人観光客が200万人を超えたが、そのうち台湾からは過去最高の60万人以上が訪れた。バニラエアやタイガーエア(シンガポール)など新規航空路線が開設された影響がある。

 2年前から私の提案で、県は沖縄観光文化を紹介するイベント「沖縄ナイト」を台北で開催。観光業界や航空会社から多くの団体・企業が参加している。その効果もあってか、今年4月に宜野湾海浜公園で開かれた花火大会「海炎祭」に台湾から約1500人が参加した。

 ――最近では、台湾人観光客の女性が沖縄で緊急出産をして、多額の費用が必要になったがすぐに多額の寄付が集まったと聞く。

 3月29日に高雄出身の新婚夫婦が沖縄入りし、すぐに破水し帝王切開の手術を受けた。赤ちゃんは1000グラム以下の未熟児として生まれた。約2カ月の間、新生児集中治療室に入る必要があるが、保険が利かないため約600万円掛かるとのことだった。

 私が窓口になって対応し、琉球華僑総会の張本光輝会長に相談した。公文書を作って支援を呼び掛けたところ、支援の輪が瞬く間に広がり、寄付金は目標の倍が集まった。その中でも沖縄の人々からの寄付金が多く寄せられたことに感謝している。

 また、台湾も日本も自然災害が多い。99年の台湾地震では日本から多くの義援金が集まった。2011年の東日本大震災では台湾が約200億円寄付した。孟子の言葉にあるように「惻隠(そくいん)の情」を感じる。

 ――翁長雄志知事は4月に台湾を訪問した。具体的に何か進展は。

 知事が14年12月に就任して、翌年4月、那覇港湾組合会長の立場で台湾を訪れ、台湾の港湾管理会社との間でMOU(覚書)を締結した。クルーズ船など船舶の操業をやりやすくする取り決めで、大きな効果が出ている。

 また、昨年9月には県の台北事務所が台湾の財団法人金属工業研究発展センターとソフトフェア、半導体、医療機器などの分野で提携した。知事は今回、そのお礼として台北と高雄にある同センターを訪問した。どうすればお互いにウィン・ウィンの関係を築けるかが重要になる。

 ――この他、沖縄と台湾の経済交流ではどのような成果が出ているか。

 県は投資の誘致、商談会を積極的に行っていて、成果が出ている。

 うるま市の工業団地に自動車部品会社BGF(ビージーエフ)が進出することが決まった。台湾は主要諸外国とFTA(自由貿易協定)を締結していないため、海外に輸出する場合は高い関税が掛かる。沖縄の経済特区制度を利用することで税制上の大きなメリットがある。

 大手セメント会社の嘉新水泥が那覇市の中心部と豊見城市豊崎にショッピングセンター兼ホテルの建設を進めている。また、台湾の大手化粧品メーカーが海洋深層水を活用した基礎化粧品を開発するポイントピュールと共同出資で沖縄に生産工場を設立した。

 これから、どんどん台湾の製造業が沖縄に進出してくる。積極的なビジネスを展開する台湾の気質と沖縄の技術・インフラが合わさればうまくいくだろう。

 ――蘇処長は修学旅行で台湾に行くよう奨励しているが。

 台湾を訪れる日本の修学旅行生は2011年には68校、約1万人だったが、16年は322校、3万6000人になった。これまではシンガポール、韓国、中国を選ぶ学校が多かったが、今は台湾にシフトしている。

 そのうち、沖縄本島では私が13年末に赴任して以来、球陽高校と興南高校が実施し、今年からは那覇商でスタートする。台湾では台北の名だたる名門高校が修学旅行生を受け入れてくれている。

 台湾としても、国際的視野とグローバル人材育成の目的で修学旅行を推進し、その旅行先として日本に照準を合わせている。ただ、台湾から修学旅行で沖縄に行く学校はまだない。修学旅行も双方向の交流になるのが望ましい。

 ――蔡英文総統が就任して1年になるが、両岸(中台)関係ではどのような変化が生じたか。

 総統は1年前の就任あいさつで、独立志向と中国に対する警戒心に言及した。中国が台湾観光に制限をかけたため、影響を受けた。

 大陸は外交面で横やりを入れている。国際民間航空機関(ICAO)、国際刑事警察機構(ICPO)の国際機関はこれまでオブザーバーとして参加していたが、招待が来なかったり、参加阻止などの妨害を受けるようになってしまった。世界保健機関(WHO)の年次総会は8年連続でオブザーバーとして参加している。今年は5月22~31日に開催されるが、まだ招待状が来ていないという。中国にはもう少し大人の対応を求めたい。


蘇啓誠(そ・けいせい)

 1957年台湾嘉義県生まれ。私立中国文化大学大学院(台北)で日本文学、大阪大学大学院で日本学の修士号取得。大学非常勤講師を務めた後、1991年に外交部に入る。台北駐日経済文化代表処秘書、亜東関係協会総務課長、副秘書長などを経て2013年12月から現職。