銭湯の魅力、フランス人が再発見

手軽に毎日リフレッシュ

一般社団法人・日本銭湯文化協会公認 銭湯大使
ステファニー・コロインさんに聞く

 2020年東京五輪・パラリンピックに向けて日本の伝統文化を発信する動きが活発化している。しかし、伝統工芸産業は後継者や利用者が減少しており、銭湯もその一つだ。フランス出身で、銭湯大使として銭湯の魅力を国内外に発信する活動をしているステファニー・コロイン氏に、銭湯の魅力や課題について聞いた。
(聞き手=宗村興一)

銭湯こそ自分の居場所/地域の人が触れ合う社交場
子供たちのマナー教育の場にも 

銭湯と出合ったきっかけは。

ステファニー・コロインさん

 ステファニー・コロイン 1985年5月27日、フランス・プロバンス生まれ。リヨン大学で日本文学を専攻し、2008年交換留学で来日。その際、銭湯と出会いファンになる。15年に日本銭湯文化協会公認の銭湯大使に就任。国内外に銭湯の魅力を発信している。

 フランスのリヨン大学で日本文学を専攻し、2008年に立教大学に交換留学で来日した。ある日、友達から銭湯に行かないかと誘われた。立教大学から徒歩10分の所にある妙法湯という銭湯。フランスには裸になる文化がないから少し戸惑った。でもすぐに暖かい空間になじんで、お湯の気持ち良さ、人の良さを感じた。主人は柳澤さんという方で、すごく優しく話してくれた。今でも通っている。大学卒業後、4年くらい日本から離れたが、仕事で来日することになった。住む場所を決めるとき、アパートの候補を眺めていたら、近くに妙法湯を発見し、即決した。そして働き始めたが、仕事が大変だった。その時、銭湯のことを思い出し、また銭湯に通うようになった。そして銭湯が自分の居場所だと感じた。これは偶然というより運命だと思った。

銭湯大使になられた経緯は。

 いろいろな銭湯を回ってみて、銭湯は1軒1軒違うからとても楽しい。でも回るだけではなくて同時に勉強もした。銭湯のオーナーに、銭湯の仕事や歴史など、いろいろな話を伺った。それがすごく楽しくて、これを自分のためだけにしておくのはもったいないと思った。そしてインターネット交流サイト(SNS)のインスタグラムで、英語と日本語で発信した。銭湯大使になったのは2015年12月で、その前からもオフィシャルの仕事として、東京都の公衆浴場対策協議会の委員も務めていた。銭湯への愛と発信力が認められ、銭湯大使に任命された時は嬉しかった。

ずばり銭湯の魅力は。

 三つの魅力があって、一つ目は健康美容効果があること。体の芯まで温まるし、体内の毒素や老廃物を出すデトックス効果もある。肌が一番きれいなときは銭湯に入った後だから、デート前などによくお勧めしている。私は銭湯に通うようになってからは風邪を引かなくなった。今は週5回銭湯に通っている。肩こりとか、体の痛みの改善もできる。何か嫌なことがあっても、銭湯に入ればすっきりする。

 二つ目は、銭湯が担うコミュニティーの側面。銭湯では譲り合いや気遣いなど、隣の人に気を付けてみんながきれいに使えるようにしなくてはならないマナーがある。これは子供の教育にも良い。また、いろいろな人と楽しい話もできるし、社交場のような所だ。

 三つ目は銭湯のアート。銭湯の建物は、お寺や神社と同じ宮造りで建てられているところが多い。建物の中では、銭湯内の壁に描かれた絵が魅力的だ。絵師が書くのはペンキ絵と言い、富士山の絵が有名だ。今日本に絵師は丸山清人さん、中島盛夫さん、田中みずきさんの3人しかいない。タイルに絵が描かれているものもある。姫路城や桜などがある。タイル屋に注文して作られる。これらは30~40年前に描かれている。

日本には温泉もあるが、銭湯ならではの良さは。

 温泉と銭湯の違いは、外国人からすると分かりにくいかもしれない。温泉は「特定の成分を含んだ温水や鉱水」のことで、銭湯は入浴施設を指す。銭湯は地下水を使用しているところがほとんどだが、中には地下水が「温泉」の銭湯もある。都内にある銭湯の43軒ほどが温泉だ。

 銭湯は簡単に行けて毎日リフレッシュできる。また、外国人はタトゥーを入れている人が多い。日本にある2500軒の銭湯のほとんどで、タトゥーが入っていても入浴できる。温泉はタトゥーが禁止されている。あと、銭湯は値段がリーズナブルだ。

銭湯が昔と比べて数が減ってきている原因は。

 銭湯の歴史は古く、起源は6世紀の寺院に設置された浴堂と言われている。やがて料金を払って入る仕組みになり、江戸時代に全国的に銭湯が建てられた。

 昭和43年頃は全国で1万7000軒もの銭湯があった。今は2500軒ほどまで減少した。銭湯が減少している原因として、後継者不足や内風呂増加による利用者の減少がある。また、銭湯の経営は簡単ではない。12時から準備して14~15時に開店。終わったら掃除して、夜中の3時に寝るという働き方が多いと聞く。定休日も1日しかないため、大変な仕事だ。

銭湯の活性化のために考えていることは。

 銭湯に関する記事と写真を発表したり、講演をしたり、いろいろな場で魅力を発信している。また、海外の日本に関するガイドブックは、温泉の紹介はあっても銭湯の紹介がほとんどない。中には日本の銭湯はタトゥーが禁止されているという間違った情報も載っているものもある。外国語での発信を多くしたい。

 銭湯でイベントをやる所も増えてきており、若い銭湯ファンが増えている。落語など同じ伝統文化とコラボするなど、イベントで銭湯の魅力を発信し、多くの人に銭湯の良さを知ってもらいたい。