敵基地攻撃能力保有は必須

インタビューfocus

「新段階」北ミサイルの脅威(下)

元護衛艦隊司令官・海将 金田秀昭氏に聞く

北朝鮮の脅威が新たな段階に入ったことで、日本はミサイル防衛をどう強化していくべきか。敵基地攻撃能力の保有や地上発射型イージスシステムの配備などが浮上している。

金田秀昭氏

 弾道ミサイル防衛を全うするためには5D政策を取っていかなければならない。外交手段を通じて攻撃意思を和らげる(なくす)「諌止(かんし)(ディスウェイジョン)外交」、その対極にあるミサイル使用を抑制させる防衛態勢としての「抑止(デタランス)態勢」、それを裏付ける能力として、相手の攻撃を拒否する強い力を持つ「拒否(デナイアル)能力」(攻勢防御)、飛んできたミサイルを撃ち落とす「防衛(ディフェンス)機能」(能動防御)、住民の避難訓練・意識改革や避難施設建造などによる「被害(ダメージ)局限」(受動防御)がそれだ。

 この5D政策からいうと、拒否能力(攻勢防御)として、策源地(敵基地)攻撃の能力を持つことは必須となる。予防攻撃は国際法上許されていないが、明らかに敵対意図を持って攻撃を準備している相手を叩(たた)く先制攻撃や反撃は許されている。日本でも昭和31年に当時の鳩山一郎首相が、誘導弾(弾道ミサイル)の攻撃に対し「座して死を待つべしというのが憲法の趣旨だとはどうしても考えられない」と明言している。この考えは今も生きている。

敵基地攻撃には、どのような組織、装備が必要か。

THAAD

最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」2009年3月撮影、米国防総省ミサイル防衛局提供(AFP=時事)

 具体的には、トマホークなどの戦術的な対地巡航ミサイルの保有、または無人航空機(UAV)を使っての敵基地の偵察、攻撃などが考えられる。さらに、策源地攻撃に必要な各種の機能を有する航空戦力を組み合わせた戦爆連合編成(ストライク・パッケージ)が可能だ。

 策源地攻撃は、誤爆を避け、慎重で精密な攻撃をしなければならないが、湾岸戦争以来、米軍はその能力を向上させているので協力していけばよい。

 航空自衛隊は2014年に、航空総隊の隷下に飛行戦闘、高射教導、電子作戦の戦闘技術を高める航空戦術教導団という部隊を新編した。これはストライク・パッケージによる策源地攻撃能力の開発に役立てることができるであろう。一方、敵国の攻撃目標の攻撃を誘導する爆撃誘導員の育成などが、今後の課題となる。

 策源地攻撃能力の保有を推進することこそが、南西諸島や米軍基地を含めた国内の主要地域に対する弾道ミサイルや巡航ミサイルによる攻撃を日本自身で防衛するという強い決意を示すことになる。そのことが米国の核を含む拡大抑止のコミットメントを担保するための、日本の双務的責任を示すことになるはずだ。

防衛省 統合防空態勢を検討

ミサイル攻撃に対する防衛能力の向上には何が必要か。

 まず装備個々の能力を向上させることが第一。現在のミサイル防衛はイージス艦のSM3と地上発射のパトリオットミサイル(PAC3)の二層で行われている。これを組み合わせた能力を向上させる。

 日米の技術協力でイージス艦の持つSM3を今のブロック1Aよりはるかに性能の高いブロック2Aに切り替える。PAC3の方は既に能力が倍増した能力向上型(MSE)を導入している。その他、レーダーや指揮管制システム(JADGE)などの能力向上が図られている。

 大気圏外で迎撃するイージス艦のSM3と大気中の下層で迎撃するPAC3の中間をカバーするのが韓国に配備されつつある終末高高度防衛ミサイル(THAAD)だ。これを自衛隊が導入するかしないか、あるいは米軍が配備するかが検討されている。

もう一つの配備候補としては、地上発射型イージスシステム(イージス・アショア)がある。

 これはイージス艦搭載システムを陸上に配備するというもので、カバーできる領域がものすごく広いので、日本全土を少ない数で守ることができる。また、北朝鮮だけでなく、中国のより優れた弾道ミサイルや巡航ミサイルにも対処できる。忘れてならないのは、中国は北朝鮮とは量も質も段違いの弾道ミサイル、そして、巡航ミサイルを、いつでも日本に向けて発射できる態勢ができているということだ。

 地上発射型は既に欧州では16年にルーマニアに配備され、18年までにはポーランドに配備される。これはイランのミサイルの脅威に対抗するものだ。

 一方、日米では、迎撃ミサイルによる機械的破壊手段の他、レーザーや電磁パルスなどによる迎撃手段も研究されている。

これらを総合的に整備する必要があるのではないか。

 現在、防衛省では航空攻撃や対地・対艦戦術ミサイル、地上発射の弾道ミサイルや巡航ミサイルなどの全ての経空脅威に対応できる統合防空ミサイル防衛(IAMD)態勢整備の検討を進めている。

 また自民党では、策源地攻撃能力の保有や、IAMDの整備に関する意見の党内とりまとめを行っていると聞いている。北朝鮮の核開発やミサイル発射が、顕著となっており、敵基地攻撃能力の保有やIAMDの整備に向けた力の入れようは今までとは違ってくるはずだ。

(聞き手=政治部長代理・武田滋樹)