活力ある北海道へ

JR存続、原点に返った議論を

前衆議院議員 清水誠一氏に聞く

 2018年、北海道は開基150年を迎える。この間、原野だった北海道は先人の開墾によって整備され、道民は先進諸国並みの生活を営んでいる。昨年は北海道に新幹線が開通した。しかしながら、そうした北海道にも難問が山積している。JR北海道は、昨年11月に単独では維持できない10路線13区間を公表した。一方、農業の自由化の波が押し寄せている。また、昨年12月のプーチン大統領の来日で期待された北方領土の返還交渉は無残に打ち砕かれた。そこでこれらの問題を前提に北海道が活性化するための方策について前衆議院議員の清水誠一氏に聞いた。
(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)

必要な国家的視点/対露経済交流のインフラにも
新幹線の魅力はスピードと輸送力/農産物輸送も一考の価値 

北海道は人口減少の真っただ中にあります。そうした中でJR北海道は昨年11月、単独では維持できない10路線13区間の廃線あるいは地元の一部負担を打ち出しました。JRの提案についてはどう思われますか。

清水誠一

 しみず・せいいち 昭和24年2月生まれ。帯広市出身。昭和58年から帯広市議会議員を2期務める。平成3年から北海道議会議員を5期務め、平成24年に衆議院議員となる。現在、自民党北海道ふるさと創生支部長、社団法人全国肢体不自由児・者父母の会連合会会長。平成17年4月、藍綬褒章受章。

 JRは昭和62年(1987年)に国鉄の民営化に伴って誕生した企業群である。JRはそれぞれ北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州の6社に独立した会社として分社化された。しかし、その時すでにJR北海道は将来的に赤字になると想定されていたのである。国鉄が民営化された背景には、慢性的な赤字体質があったが、何よりも国と労働組合の対立が激しかった。労働組合は主張が受け入れられなければすぐにストライキを起こすなど国民生活にも影響を及ぼしていった。

 その一方で国民は、国鉄を民営化すれば黒字化するという幻想にとらわれていた。ただ、JR北海道に限って言えば、民営化しても黒字になる保証はなく、むしろ経営は赤字になるとの推測が関係者の間にはあったのである。そうした状況の中でJR北海道は経営改善されることなく30年が経過した。昨年11月にJR北海道は単独で路線を維持することが困難な路線区間を公表し「廃線あるいは沿線自治体に一部の負担をお願いしたい」と自治体に協議を提案したわけだが、自治体としては「はい、そうですか」とJR側にすんなり応えるわけにはいかないのは当然だ。

 この問題を解決する手段として、もう一度、民営化した昭和62年の時点に帰るべきだと私は考えている。前述したようにJR北海道は民営化されても黒字を出すのは難しいと予測されていた。しかしながら、当時は初めから民営化ありきで、分社化された後の採算ベースをしっかりと予測することなくスタートしてしまった。もちろん、JR北海道には経営安定基金を創設し、それを使って赤字を補填しようとしたのだろうけれど、現在のような低金利状態では赤字の補填(ほてん)は無理な状況で、むしろそれを食っているような状況だ。従って、JR北海道においては国土軸の形成という視点から国が補填するか、あるいは収益の上がっているJR各社との合併などを通して補填していく仕組みを作っていかなければ、JR北海道の存続そのものが無理だと考えている。

昨年、北海道には新幹線が開通しました。道民にとって明るい材料と思われますが、JR北海道にとっても経営の柱になると思われますが。

 確かに北海道新幹線は道民の悲願であったし、昨年3月に新函館北斗駅まで来たことは北海道にとって喜ばしいことであった。私としてはさらに一日も早い札幌延伸を望んでいる。もっと言えば、前倒しで早期に長万部(おしゃまんべ)まで開通させてほしいと思っている。

 新幹線の魅力は何と言ってもスピードと輸送力。そのメリットを最大限引き出すための施策を打っていく必要がある。例えば、人が少なければ農産物を運ぶのも考えていいのではないか。新幹線が札幌まで延伸したとしても新幹線のメリットを味わうことなく赤字にあえいでいたのでは意味がないだろう。そういう意味を含めて、今後のJR北海道に関しては、JR東日本やJR東海、JR全体で取り組んでいくという方向を示していくのが最も理に適(かな)っている。

仮に現在、JR北海道が提案している路線が廃止された場合、かなり道民の足ばかりでなく道内経済に支障が出るのではないでしょうか。

 今回、JR北海道が廃線あるいは地元負担を打ち出した大きな理由に、採算が取れないことを第一に挙げているが、その背景には乗客が少ないことがある。ただ、鉄道がだめならばバスに転換するといっても、バスなら必ず採算が合うというものではない。過去のバス転換路線を見ても赤字路線が多くバスが採算が合わなければバス路線も廃線にすることでいいのか、ということだ。もう一つ別の観点から見れば、例えば、今後、北海道とロシアの経済交流が活発化してくるとすれば、稚内―サハリン間パイプライン構想・海底トンネル構想も持ち上がるだろう。北海道の北部を通る稚内本線は重要になってくる。JR北海道は同線の稚内-名寄(なよろ)間を地元負担にすると打ち出しているが、ここをなくすと将来的に大きな損失になるだろう。そうした将来のことを考えてJR北海道の経営については、国が100%の株主であり、国家的視点に立ちもう一度原点に立ち返った議論が必要だ。

次に農業問題ですが、米国では1月20日にトランプ新大統領の就任式があります。そこでトランプ氏はTPP(環太平洋経済連携協定)について批准しないと言っていますが、北海道農業の将来についてどう考えますか。

 仮にTPPが実現した場合、影響が考えられるのは、畑作全般に及ぶとともに酪畜産農家にも影響が出るだろう。生乳は今のところ輸入できないため、影響はそれほどないだろう。また、バター、チーズは現在でも不足していることから問題ないように見えているが、食料安保を確かなものにするため思い切った対策をしなければならない。牛肉には影響が出てくる可能性がある。畜産農家は雌牛を乳牛として使うが、雄牛は肉牛として出荷する。その肉牛の部分で輸入肉と競合することになる。

 もっともトランプ氏はTPPには反対を表明しているが、その代わり2国間での自由貿易協定を望んでいる。どちらにしても日本には強硬な姿勢を示してくるだろうから、日本の農業は強烈な外圧にさらされることになる。農業従事者の高齢化や後継者不足問題など国内的にもさまざまな問題を抱えてはいるが、足腰の強い農業を作っていかなければならないのは言うまでもない。

北海道に関していえば、昨年末にプーチン・ロシア大統領が来日して安倍晋三首相と日露首脳会談を行いました。北方領土問題に進展があるのではないかと道民も期待しましたが、経済協力ばかりが目立ち失望に終わった感があります。日露首脳会談の結果をどのように見ていますか。

 ロシアは北方領土を返す気はないのだろう。むしろ、領土拡大策をとっていると思う。かつてロシアは帝政時代にアラスカを米国に安い値段で売ってしまった。千島列島も日本に手放した。彼らにしてみれば、手放した領土がいかに大きいものであったか、その後悔の念が骨の髄まで刻み込まれている。一方、日本には経済力と技術力があり、ロシアにとってそれは喉から手が出るほど欲しくてたまらない。領土は手放したくないが、技術開発、経済協力は取り付けたい。そんな思いで日本にやってきた。確かに樺太(サハリン)の資源は魅力だが、日本としてはロシアに乗せられて単に経済協力だけに終わるのではなく、これからも地道に領土交渉を進めていくことが重要だ。