復興の新しい風、被災地にIターン呼び込む

NPO「SET」代表理事陸前高田市議会議員
三井 俊介氏に聞く

 東日本大震災から5年、復興はまだまだ途上にある。震災直後から「奇跡の一本松」で知られる岩手県陸前高田市に支援ボランティアとして入り、そのまま移住を決意、若者の「Iターン」を斡旋(あっせん)する「チェンジメーカー・プログラム」を推進する特定非営利活動法人(NPO)SETを活動基盤にしながら、現地の人々に受け入れられ、昨年9月の市議選に出馬してトップ当選した三井俊介同法人代表理事に被災地の現在を聞いた。(聞き手=編集委員・岩崎 哲)

増やしたい起業移住者/まずは好きな田舎の訪問を
支援の風と地元の熱意、内外の風で新風起きる

―陸前高田市に関わるようになったきっかけは。

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 みつい・しゅんすけ 昭和63年、茨城県つくば市生まれ。法政大学卒業、平成23年3月NPO「SET」を立ち上げ、同年4月から岩手県陸前高田市で復興支援活動を行いながら、同市広田町に移住。同27年9月の同市議選に出馬、トップ当選を果たす。SET代表理事兼現地統括。

 大学を休学してブラジルで2年ほど、子供たちのサッカーの夢を支援する学生団体「ワールドフット」の活動を行っていた。帰国し復学してから次の目標を考えていた時、東日本大震災が起こった。

 3月13日にはSETを立ち上げた。最初に行ったのが物資の搬出搬入、仕分け作業だった。企業とNPOを繋(つな)いで物資のルートを作った。3月いっぱい、それをやり、現場でもできることを探るため、4月6日にツテを頼って現地に入った。

現在活動拠点にしている陸前高田市の広田町に移住することになったのは。

 自分が育った所は移住者の町(茨城県つくば市)で、近所付き合いもなく、伝統的なお祭りもなく、大学も東京へ進んだ。ところが、広田町に来たら町中の人が知り合いだというので、カルチャーショックを受けた。そういう付き合いがすごくよく見えた。また、自然が豊かで、これほど海が近い所で暮らしたこともなかった。震災がきっかけだったが広田で活動してみて、人々の顔が見えたし、ここで暮らしたいと思った。

SETでは「Iターン」を推進しているが具体的には。

 3年前から大学生向けの1週間滞在型の「チェンジメーカー・プログラム」を実施している。これは復興支援だけでなく、町づくりの意味合いの方が強い。「町の担い手を増やす」という目的で、それが復興でもあるし、もう少し先を見すえた活動でもある。

 募集は口コミが主だ。スタッフが自身の人脈で募集している。1回のプログラムには15人から20人ぐらい。日程は1日目から4日目まで「広田町を知る」こと。ワカメの漁や料理をやったり、町を散策したり、地元の方々と「お茶っこ」したり、その時々、季節によっても違う。スタッフが地元を回りながら考えておく。

 次に参加者が体験をもとに会議し、たとえば、広田の魅力を伸ばすためにどんなことができるかなどを検討する。これまでの例では、学生が広田で感じた魅力を逆に地元の人に伝えるバスツアーや、魅力を30秒のCMにしてネットで発信した。

 その経験から、スタッフとして活動している大学生などがその次のステップとして移住を考えていくという流れだ。

地元の協力は。

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大震災でも唯一残った「奇跡の一本松」は海水による傷みで枯死したが、幹にレプリカの枝を付け、「鎮魂・希望・復興の象徴」として残された 岩手県陸前高田市

 今までの3年間は半年に1回春休みと夏休みにプログラムを実施していた。1つの地区で28人協力者ができたら、参加者15人から20人を迎えるようにしている。SETメンバーの大学生が月に1回来て、地元の人と関係を築きながら、相談して受け入れ方を決めている。中には、飛び込みで行って話をする場合もある。

いままでの参加人数は。

 3年間で80人だ。この中で広田に住んでみようと考えているのが3人。彼らが移住してくれば、これまでの総数は私の家族を含めて10人くらいになる。広田町の20歳から30歳は100人しかいないから、1割を占めることになる。

外から人が来てくれることに対して、地元の人々の反応は。

 大分受け入れてくれるようになった。選挙戦で「新しい風を吹かせましょう」と訴え、多くの人がそれに応えてくれた。そうなるまでには5年かかった。

市議選に出る経緯は。

 自分が政治家になりたかったわけではない。町に貢献できる手段として政治家を選んだだけで、NPO活動のPRを選挙に換えたようなものだった。この町のためになりたいという私たちのような外からの風と地元の人たちで頑張りたいという中からの風が合わさって、初めて陸前高田に新しい風が吹いていくと。

市議になった利点・不利点は。

 予算を見て、市がどこに本気で力を入れようとしているのかが見えてきた。しかし残念なことに、Iターン者を受け入れる環境づくりを市として一切していないことが分かった。例えば、空家を利用して長期滞在する仕組みとか、泊まりやすい仕掛けとかがない。そういう状態で人口を増やす、移住者を増やすといってもできるわけがない。

 NPOとしては、移住したい人、仕事をしたい人、町のためになりたい外の人を集めるので、環境づくりは市役所の施策としてやってもらいたい。これが両輪で回っていけばいい。

Iターンの一番の課題は突き詰めていけば雇用だが。

 陸前高田市はこれから商店街ができるので、そこで200人規模の雇用が生まれると見積もっている。業種はこれまでと同じものだ。しかし、それが嫌だから若者は出て行ったわけで、200といっても、どれだけ魅力的な雇用があるか分からない。

市での受け入れ態勢はどうなっているのか。

 現在、それを一般質問でしているところだが、空き家バンクを作るぐらいの対応だ。Uターン・Iターン者等の移住支援と奨励金の拡充だけだ。就職情報サイト設置など。受け皿があるから来てくれと言っても地方には絶対来ないと思う。地方に何かしら愛着、そこでしかできない仕事があるから人は来る。

 一般質問でやっているのは、起業移住を増やそうということ。この町で自分で仕事を作り出す人材を獲得していくことがまず第一だ。そういう人が増えれば、さらに仲間が増えていく。この町で自分で仕事を作っていくという若い人たちが増えないと、いくら市役所が仕事を用意しても来ないんじゃないか。移住と結びつかない。

10年後もここにいるか。

 いるだろう。「この町で暮らすこと」=「自分にとって豊かな暮らしをしている」ということなので、10年経(た)ってもここにはいると思う。議員をやっているかどうかは分からないが。今の活動の延長というか、町づくり的なもっと拡大したものをやっていたいなと思う。

Iターン希望者にアドバイスを。

 飛び込んでみるしかない。田舎はたくさんある。自分が好きな田舎にまず足を運んで、地元の人に会ってみてから始まる。ネットを見ていても何も進まない。まず来てみたら、と言いたい。