北の「対米抑止力過信」を警戒 中谷元防衛相に聞く
日米韓の防衛協力さらに強化を
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中谷元防衛相はこのほど、防衛大臣室で本紙のインタビューに応じ、北朝鮮による核実験・長距離弾道ミサイルの発射実験による能力の向上を「極めて強く懸念すべきことだ」と述べるとともに、北朝鮮が米国に対する戦略的抑止力を確保したという認識を一方的に持つ可能性を指摘し、「こうした誤認、過信を持てば、軍事的挑発的行為の増加、重大化につながる可能性もある」と警戒感を示した。その上で、日本、米国、韓国3カ国の防衛協力をさらに強化する必要性を語った。
(聞き手=早川一郎・政治部長)
北朝鮮による「水爆」と称する核実験、「人工衛星」と称する長距離弾道ミサイル発射実験で、それぞれどれくらい技術が進歩したと分析しているか。
今回、核実験が4回目となることから、核兵器開発については技術的な成熟が見込まれ、北朝鮮の核開発をより一層進展させたものと考えており、強く懸念すべき事態であると認識している。北朝鮮は、2006年にはじめて核実験を実施した。10年という長い年月を経過する中で、核兵器の小型化、弾頭化が実現に至っている可能性も排除できない。
一方、ミサイルにおいては、2012年12月に「テポドン2の派生型」の発射を成功させ、多段階の推進装置の分離技術、姿勢制御・推進制御の技術など弾道ミサイルの長射程化、また高精度化に必要な技術の検証を行っていると見ている。
今回の北朝鮮による「人工衛星」と称する弾道ミサイルの発射については、防衛省として、多くの点で引き続きさらなる詳細な分析・検証が必要と考えているが、北朝鮮が公開した画像や今般の飛翔状況などを踏まえれば、今回も「テポドン2派生型」に類似した長距離弾道ミサイルを発射したと見られる他、何らかの物体を地球周回軌道に投入したと考えられる。今回も長射程のミサイルの発射を行うことによって、技術的成熟度をさらに高めたものであると言わざるを得ない。
こうした技術は、パレードにも登場した「ムスダン」や「KN08」などの北朝鮮が新たに開発中の中・長距離ミサイルにも応用可能で、今回の発射は、北朝鮮による弾道ミサイル開発全体を一層、進展させたものである。そして、こうした弾道ミサイルの能力の向上は、わが国に対するミサイル発射攻撃の示唆などの挑発的言動と相まって、わが国の安全保障上、極めて強く懸念すべきことだ。
一つ心配すべきことは、北朝鮮が米国に対する戦略的抑止力を確保したという認識を一方的に持つ可能性が否定できないことだ。北朝鮮がこうした誤認、過信を持てば、軍事的挑発的行為の増加、重大化につながる可能性もある。今後ともわが国としては、こうした北朝鮮の行為は、脅威を一層高めるものであると評価せざるを得ない。
航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を沖縄県などに配備し、イージス艦も展開して北朝鮮による長距離弾道ミサイルに備えた迎撃態勢を整えた。今後、予告なく連続発射されることに備え、ミサイル防衛をさらに充実させる必要があると思うが。
防衛省、自衛隊としては、事前の予告なく北朝鮮がミサイルの発射を行う場合も含めて、いかなる場合においても対応できるように、平素から情報収集、警戒監視などに努めている。他方、北朝鮮の弾道ミサイルの能力向上を踏まえ、防衛大綱においてはわが国の弾道ミサイルの対処能力の総合的な向上を図ることにしている。弾道ミサイルの防衛システムにおいては、わが国全域を防護し得る能力を強化するため、即応体制や同時対処能力、継続的に対処し得る能力を強化することにしている。わが国としては、国民の安全、安心を確保する観点から、あらゆる事態を想定して、的確に対応して、引き続きミサイルの脅威から国民の生命、財産を守るため万全を期していきたい。
THAADミサイル導入を検討
対中防衛 与那国島に沿岸監視部隊を新編
韓国においては「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備を具体的に検討しているが、自衛隊へのTHAAD導入に関する議論は。
THAADミサイルは、PAC3よりもレンジ(射程距離)が長く、早い段階から迎撃することができる。平成26年度から調査研究を実施するなど、さまざまな研究を精力的に行っている。現段階において、THAADを導入するという具体的な計画はないが、新たなアセットの導入は、具体的な能力強化の一つとなり得ると考えている。米国の先進的な取り組みや装備品の研究をしつつ、将来的なあり方について、引き続き検討を加速していきたいと考えている。
調査はどのくらいの期間で結論を出す考えか。
防衛省としては、将来のあり方を検討するということで、すでに平成26年度には約4000万円、27年度にも約6000万円、28年度にも約6000万円という予算を組んで、将来的な弾道ミサイル防衛(BMD)の研究を行っている。こうした新しい動きに対し、総合的に検討しているところだ。
3月下旬に日米韓首脳会談が予定されているが、防衛省としては、今後日米韓および日米でどのように協調していくつもりか。
日米韓の三カ国は、この地域の平和と安定に関して、共通の利益を持っている。機会を捉えて、緊密に連携を図っていくことが、北朝鮮問題を含めたさまざまな安全保障の課題に対処する上で重要だ。特に先般の北朝鮮の核・ミサイルの脅威に関しては、まず私が韓国の韓民求国防相に電話した。米国のカーター国防長官とも電話会談を行っている。
実務レベルでは、日米韓の局長、課長級のテレビ会議を実施した。また、日米韓の軍のトップの参謀総長級のテレビ会議も実施している。今回も緊密に連携を取って、情報の共有を図りながら対応してきた。引き続き日米韓三カ国で緊密に連携を図りながら、対応していきたい。
また、昨年5月にシンガポールにおいて、日米韓防衛相会談を実施し、三カ国の安全保障における協力を進めるということで一致した。防衛省としては、三カ国で定期的な協議を行って、情報の共有や非伝統分野の面での防衛協力、共同訓練も進めていきたい。
また、昨年4月に日米で新ガイドラインを策定したが、三カ国の防衛協力の推進強化も明記しているので、こういったものを基に幅広い分野における安全保障、防衛協力を進めて、日米同盟による抑止力、対処力を強化していきたい。
日本と韓国が直接、情報共有できるようになれば両国の危機対処能力は格段に高まる。韓国との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結は。
今回の日韓の防衛相会談において、私から韓国防相にGSOMIAを締結する必要性は伝えた。これに対しては、韓国で考え、判断することなので、現在、韓国の中で対応していると思う。やはりミサイルの防衛を踏まえても、両国の情報の共有や専門的協議は必要なので、今後も密接に両国間で対話、協議しながら対応していきたい。
中国が西沙諸島のウッディー島に地対空ミサイルを配備したが。
中国の南シナ海における動向については防衛省としても重大な関心を持っている。平素から情報の収集、分析に努めている。公表されているウッディー島に関する画像などによって地対空ミサイルとみられる装備の所在を確認した。昨今、中国はベトナムなどとの間で領有権を争っているウッディー島の既存の滑走路を延長するなど拠点の整備を進めている。この南シナ海における拠点の構築、軍事的目的への利用、現状を変更して緊張を高める一方的な行動は、国際社会共通の懸念事項だ。わが国としては開かれた自由、平和な海を守るために国際社会と連携していくことが重要だ。
今後とも中国の南シナ海における動向には注目していくが、中国は「軍事化の意図はない」と自ら発言したので、このことを踏まえたより透明性のある説明を期待している。
尖閣諸島周辺に中国の船が出没し、領海侵犯を繰り返している。この島をどう守っていくのか。実効支配を強化するために、船だまりや安全航行のための灯台や通信施設の設置などを行う考えは。
平成24年から中国の公船による尖閣諸島周辺の領海侵入が常態的に発生している。わが国は尖閣諸島を含む多くの島を有しているが防衛省、自衛隊としてはわが国の領土、領海、領空を断固として守るために平素から関係機関と協力して尖閣周辺を含めたわが国周辺の海空域における警戒監視活動に万全を期している。
これらの島しょ部に対する攻撃に対応するためには、この警戒監視活動のみならず、海上優勢、航空優勢を確保するために平素から安全保障環境に即した部隊の配置を行い、南西諸島における防衛態勢を目に見える形で強化していくことが重要だ。こういう考え方に基づいて防衛大綱・中期防衛力整備計画の下に今、具体的な取り組みをしている。
例えば、一昨年は那覇基地に警戒監視のためE2C(早期警戒機)の部隊を配備した。また、先月31日に第9航空団を新編して那覇基地に所在するF15を2個飛行隊として防空能力の総合的向上を図った。さらに、南西地域には航空自衛隊のレーダーサイトがあるが、沖縄本島以外に陸上部隊は配備されていない。このため、与那国島に今年の3月28日、付近を航行する艦船や航空機を沿岸から監視し各種の兆候を早期に探知することを任務とする沿岸監視部隊を新編する。
また、奄美大島、宮古島、石垣島については島しょ部における災害を含むいろいろな事態が起きた際に、迅速な初期対応を行うための警備部隊、中距離地対空誘導弾(中SAM)部隊、地対艦誘導弾(SSM)部隊を新編する取り組みをする。
尖閣諸島がわが国固有の領土であるということは歴史的にも国際法上も疑いがない。現にわが国は有効的に支配している。船だまりなど、尖閣諸島および海域を安定的に維持、管理するための具体的な方策については、政府全体で戦略的観点から考えていく。
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