拡大する「同性パートナーシップ」

「家族」保護は国の優先課題

政治評論家 ナザレンコ・アンドリー氏に聞く

 同性カップルを「夫婦」相当の関係として公認する「パートナーシップ制度」の導入が60以上の自治体に拡大し、いずれ「同性婚」の合法化が政治課題になる情勢になってきた。2014年から日本に住みながら、月刊誌やツイッターなどで、政治評論活動を続けるナザレンコ・アンドリーさんに、母国ウクライナをはじめとした海外の実情と比較しながら、LGBT問題や伝統的な家族を守ることの意義について聞いた。
(聞き手=森田清策)

LGBT問題避ける保守派
マスコミが言論の自由奪う

同性パートナーシップ制度をはじめ現在のLGBT運動について、政治家が反対の立場で発言すると、少なからぬテレビ・新聞から強く批判される。日本のメディアをどう見るか。

政治評論家 ナザレンコ・アンドリー氏

 ナザレンコ・アンドリー 1995年、ウクライナ東部のハリコフ生まれ。柔道家の父の影響で、日本文化に囲まれて育つ。親露政策に反対する国民運動に参加した後、2014年に来日。ウクライナ語、ロシア語のほか、日本語、英語にも堪能。今年、著書「自由を守る戦い――日本よ、ウクライナの轍(てつ)を踏むな!」を発表。ツイッターは7万以上のフォロアーを持つ。

 非常に偏っていると思う。それは日本のマスメディアのみならず、米国をはじめ世界的な傾向と言える。

 LGBT問題は、欧米の保守にとっては非常に重要なテーマで、どれほど重要かというと、フランスでは、同性婚が合法化された翌日、保守派の作家がパリの教会で遺書を残して自殺した。「私たちは負けた」「この国に未来がない」と、絶望を覚えて。

 だが、日本では一応、保守を名乗る人でもLGBT問題になると、関わりたがらない。少しでも批判的なことを言えば、すぐ多くのマスメディアから叩(たた)かれデモまで行われるから。日本のマスメディアは「表現の自由」とよく言うが、実際はマスメディアこそ日本の保守派から言論の自由を奪っている。

ウクライナにおけるLGBT問題の状況は。

 ウクライナ憲法は、結婚は男女の合意に基づく関係と規定しているので、同性婚は憲法違反。しかし、ヨーロッパ諸国から「同性婚を合法化せよ」と、強い圧力がかかってきている。それに対し、国民感情は強く反発している。

 その国民感情は正教の世界観から出ているものだが、その上で、ソ連時代になると、同性愛が刑法違反になった。独立後、合法となったが、国民の批判的な感情は変わらない。

 だから、ウクライナではLGBT当事者でも「プライド・パレード」(同性婚などの権利拡大を求めるイベント)を行いたがらない。パレードを行おうとする人が街に出ると、保守派が何倍も出て、それを妨害する事態になる。

ウクライナの家族観と、伝統宗教のウクライナ正教会との関係は。

 ウクライナは伝統的に正教の国で、家族観は主に正教に基づいている。カトリックとプロテスタントと何が違うかというと、聖書に書かれた言葉は絶対であり、解釈を勝手に変えてはいけない、書いてある通りに従わないといけないということ。

 結婚は、もちろん男と女の間に結ばれるが、神の前で結ばれるので、相手に対する約束であるだけでなく神様に対する約束でもある。これからこの人を守る、この人と家族になると。だから正教は離婚も認めていない。

 結婚について宗教的背景まで考える人は少なくなっていると思うが、宗教的な考えは深く国民性に根付いている。

 日本との違いを言えば、一つは結婚する年齢で非常に若い。日本では、高い理想を持つ女性が多いように思う。結婚の条件として年収が重要視されるが、それは本来の家族の在り方とは違うと思う。

 夫婦はお互いを支え合って共に成長していくのが基本だから、最初から楽な生活を求めるのは愛とは別で、安楽を求めているだけ。みんなが高収入になれるはずもないのに、それを望めば、ブルーカラーの人は結婚できなくなって少子化が進む。

 少子化が進むと経済が悪化してさらに高収入の男性は減ってしまう。そしたらさらに結婚できる男性は減るというように、悪循環に陥ってしまう。なんとか解決しなければならない日本の課題だと思う。

日本では、家族は、個人のプライバシーや権利の問題だとの捉え方が強くなっている。このため、同性婚の合法化など、個人の選択を拡大させる方向で、リベラル派の政治家が発言することはあっても、伝統的な家族制度を守る立ち位置にある保守派の動きは弱い。家族の在り方と政治との関係をどう見るか。

 恋愛は個人のプライバシーだと思うが、家族をプライバシーの問題とすることには違和感を覚える。行政に書類を提出することで成立する結婚は、夫婦が社会と契約を結ぶこと。これから私たちを「家族」として扱ってくださいと。家族は社会をつくっている“レンガ”でもあるわけだから、家族を保護することは、国家の最優先課題だと思う。

日本の教育をどう見ているか。

 約3年間、塾で働いたことがあるが、歴史に関する教育は非常に問題だと思う。ただ日本が悪いことをしたということをさらりと教えて、その戦争がどうして起きたのかについては全く触れない。

 家族についての教育は、例えば千葉市は2018年、市職員や教職員向けに、「LGBTを知りサポートするためのガイドライン」を発表した。その中で、「お父さん」「お母さん」という単語を使わずに「保護者の方」「ご家族の方」と、性別が分からないように表現するよう指導する内容があった。あれは家族観を破壊する“テロ行為”のようなもの。

 また、男女生徒がそれぞれの制服を交換して着させることを行った高校があったが、まだ人格が完成していない成長期にある生徒は、教育内容に強い影響を受け将来が左右される。「自由にしていい」ではなくしっかりと社会性を教えることが重要だと思う。