世界に誇れる日本のデザイン
需要に応え柔軟に進化
d47 MUSEUM館長 黒江 美穂さんに聞く
「日本初のデザイン物産美術館」が、東京・渋谷のd47(でぃーよんなな) MUSEUM(渋谷ヒカリエ8階)にオープンして8年がすぎようとしている。「47都道府県をファッションで着る47展」を基軸に、日本が誇れる技術とモノについて同館館長の黒江美穂さんに聞いた。
(聞き手=伊藤志郎)
織り方や刺繍の技術力がすごい
綿・竹・ガラス―素材を生かす
こちらのミュージアムでは、47都道府県の情報を、47台の展示台で見せる企画展示をメインに、さまざまな講演、実演販売、体験型ワークショップなどを開催していますね。

くろえ・みほ 神奈川県出身。桑沢デザイン研究所総合デザイン科を卒業後、2012年にD&DEPARTMENT PROJECTに参加。同年より、47都道府県の「らしさ」を再発見する日本初の地域デザインミュージアム「d47 MUSEUM」の企画、編集、運営を担当。ディアンドデパートメント株式会社執行役員。
ミュージアムは2012年に開館しました。90センチ角の47台の展示台で日本を俯瞰(ふかん)できるようにと生まれたのです。当時、デザインといえば、東京、大阪、福岡などのいわゆる都市部が主流で、ほかのエリアはほとんど見向きもされなかった。
企画としては、クラフトビールやアクセサリー、工芸、食品、暮らし方、旅などさまざまなテーマで47都道府県の個性を紹介しています。
地方には多くの企業や生産者がいますが、こちらの選定基準が「地場産業や伝統工芸などの技術や土地資源の活用」「現代のリアルな需要に応えるデザインや理念」「製造過程や原材料が循環や継続性がある」としています。
その土地らしさの発想、ロングライフデザイン―長く続くものかどうかは重要視しています。
ミュージアムを開いたきっかけは?
会社の創業者はデザイナーのナガオカケンメイです。2000年にインテリアのリサイクルショップを世田谷区・九品仏駅近くに出店しました。デザイン家具や家電などが2、3年後にはリサイクルに出されてしまう。長く続くデザインを売り続けたいとの思いがきっかけです。
また日本は観光を一つの目玉にしています。古いものだけではなく、モノづくりを興すことで若々しい観光につなげたい。12年のヒカリエオープンとともに、47都道府県をテーマにしたミュージアムとトラベルストアー、食堂を出店しました。
秋田県では近年、数多くの酒蔵が潰れ、染め物、竹細工、陶器など伝統技術が消えています。人々は手軽なプラスチックや安価な製品を購入しやすい。
基本的には、どの展覧会も、その土地にもともとあった伝統や文化、技術、素材を生かして進化・発展させていく方々のモノづくりや活動、食品などを取り上げています。なくなりそうなものをどうやったら残していけるかを紹介することも多いです。
8年にわたり日本全国を見てきたわけですが、その中で気付くものは?
例えば染めや織りの技術を残そうとなったときに「工程を全て踏まないと何々織とは言いません」という形でやると、なかなか残りにくいという話はよく聞きます。
それとともに、それぞれの地域でリアルな需要に応えようという動きもあります。素材は変えても伝統的な織りの技術は変えないとか、またその逆で、益子焼では土は使うが釉薬(ゆうやく)や表現方法を変える、久留米絣(がすり)では織りはそのまま、素材や柄は進化させるという動きが増えています。
外国が注目しているのは、JAPANブランドよりさらにローカルなブランド。これも使い果たされて、今ではその先に目が向けられています。
世界に注目される素材・技術が出てきている?
広島県のトーホーは、グラスビーズで作るジュエリーが人気。ガラス棒の切断面の形状や輝きにばらつきがなく、その美しさから世界のファッションブランドに信頼されています。
一方、福井県や富山県は全国有数の絹織物産地で海外でも有名です。1970年創業の細幅織物の生産メーカーSHINDO(福井県)はデコレーションリボンからジェット機エンジンのカーボン素材まで幅広くモノづくりを行っている会社で、アパレルだけでなくアクセサリーやインテリアも世界中で使われています。
さらに、これまでOEM(相手先ブランド製造)供給をしてきた会社も、消費者と直接つながりを持ち自社ブランドを出すことが主流になってきています。
確かに、オーダーメイドの皮手袋(香川県・平田商店)、麦わら帽子メーカーがつくるハット(岡山県・石田製帽)、別府竹細工から生まれる竹かごバック(大分県・有製咲処)、新旧の編み機を駆使した靴下(奈良県・ヤマヤ)など、伝統的な技術を現代に応用展開した製品が多い。
一般のユーザーにはあまり知られていないことですが、日本のファッションメーカーが持っている布の織り方や刺繍(ししゅう)の技術力はすごいものがあります。
他に気付くことは。
道具の作り手がいなくなっていることに地元の人たちが危機感を持っています。部品の補充や修理する技術者がいない。
修理できなければ旧式の織機や道具を放棄せざるを得ない。「着る47展」でも和歌山県・今城メリヤスの吊(つ)り編み機や山形県・佐藤繊維の特殊形状意匠糸が紹介されていました。
道具の作り手をみんなでつくり出す動きが出ています。例えばヤマロク醤油の5代目は木桶(おけ)職人復活プロジェクトを12年に立ち上げ、小豆島で醤油屋、味噌屋、料理研究家などが集まりみんなで新桶作りをしたり、その魅力を発信しています。
北海道の旭川木工コミュニティーキャンプでは10年にわたり作家やデザイナー、販売員がキャンプをし、工場や家具の見学、植樹を通して違う産地の人でも横でつながり交流を深めています。
脱プラスチックや地球温暖化対策から、持続可能、地産地消が叫ばれています。
愛媛県今治市は市内に100社以上の工場がひしめく日本一のタオル生産地ですが、発色の良い化学染料を使いながらも厳しい浄化システムで環境問題に取り組んでいます。一方、綿の栽培から染色、織りまで一貫して作るカバン(鳥取県・おりもんや)もあります。
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【お知らせ】「着る47展」は3月2日で終了。その後、同館ではトラベル誌「d design travel」の27冊目『愛媛号』の発売を記念する展覧会を開催していたが、新型コロナウイルス対策のため現在休館している。