【社説】ウクライナ侵略 「ソ連帝国」を復活させるな
ウクライナ侵略を強行したロシアのプーチン政権は、2008年にはジョージア(グルジア)に侵攻し、14年にはウクライナ南部クリミア半島を併合するなど、暴力で自国の意志を押し通す手法を繰り返してきた。しかし、国際秩序破壊の常習犯であるプーチン・ロシアに対するバイデン米政権の姿勢は甘く、状況対応に終始しがちだ。
腰が引けた対応の米国
ウクライナは米国の同盟国ではない。だが、ロシアがウクライナに牙を向き始めた時、バイデン大統領はいち早く米国の軍事介入を自ら否定した。その後、欧州に若干の米軍を投入したものの、米国の関与が限定的だと告げたことは明らかに失策である。米国の腰が引けた対応、また自由諸国の意思統一の遅さもロシアを抑え難くしている。
現在、ウクライナの首都キエフの攻防をめぐって激戦が続いている。プーチン大統領の計略は、ウクライナのゼレンスキー大統領を排し親露政権を樹立させ、ウクライナをロシアの事実上の保護国と化すことにある。「ソ連帝国」復活の野望を抱くプーチン氏は、米国の力の陰りを見て、今後東欧やバルト諸国にも圧力をかけ東西の境界線を再び西へ押し戻し、旧ソ連時代のように東欧の衛星国化に乗り出してくる危険もある。
事態の改善は容易でない。だがロシアの行動を追認し、プーチン氏の野望を実現させてはならない。日米欧は協調して対露経済制裁措置を発動したが、ロシアに打撃を与えるにはまだ手ぬるい。世界の銀行決済取引網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアを排除すべきだ。大銀行やプーチン氏個人の資産凍結、ハイテク製品の輸出規制だけでなく、ロシア経済の主役であるオリガルヒ(新興財閥)を狙った制裁も必要だ。
もっとも、ロシアの対外債務は少なく、国家債務の対国内総生産(GDP)比も小さい。また、先の中露共同声明では中国への天然ガスの長期供給で合意し、欧州で失うエネルギー販路の穴埋め策を講じるなど、経済制裁を受けることは織り込み済みで、その効果は限定的であろう。このため長期にわたってロシアを苦しめ、侵略が決して得るもの無き愚挙であることを悟らせる政策が必要である。
アフガニスタンへの侵略で泥沼状態に陥り、その影響がソ連を苦しめた過去がある。またロシア帝国もソ連も、最後は内部から崩壊した。自由世界は武器や経済支援の実施でウクライナの反露抵抗活動を支え、ロシアに出血を強いるとともに、自由と民主化を求めるロシア国内の反プーチン勢力との連携にも乗り出すべきだ。
自ら動いて中露牽制を
ウクライナと台湾の立場は近似する。易々とロシアの侵略を許せば、中国の台湾侵攻を誘発する危険が高まる。軍事侵攻だけでなく、台湾でウクライナの惨状を喧伝(けんでん)し、硬軟両様のアプローチで民進党政権を孤立化させ、大陸接近を促す戦術も現実味を帯びてくる。東アジアは、その脅威にも対処せねばならない。自らが動いて欧州諸国との連携を深め、ユーラシアの東西から中露を牽制(けんせい)するほどの覚悟を日本は持つべきだ。