【社説】藤井最年少五冠 19歳の計り知れない強さ


史上最年少で五冠を達成し、記念撮影に応じる藤井聡太五冠=12日午後、東京都立川市

 恐るべき強さである。将棋の藤井聡太四冠(竜王、王位、叡王、棋聖)が、渡辺明王将(名人、棋王を合わせ三冠)に挑戦した第71期王将戦7番勝負で4連勝してタイトルを奪取した。

 10代(19歳6カ月)での五冠達成は史上初で、羽生善治九段の22歳10カ月の最年少記録を28年5カ月ぶりに更新した。これからもどこまで強くなるのか計り知れない。

 実力者の相手に4連勝

 これまで五冠獲得を達成したのは、故大山康晴十五世名人、中原誠十六世名人、羽生九段の3人。いずれも将棋界の歴史に名を残す名棋士だが、藤井五冠が今後、この3人以上の実績を残す可能性は十分にある。

 王将を奪取した第4局では、相手の中盤の攻勢を巧みにいなし、終盤に手厚い攻めで圧倒した。終局後は「自分の実力を考えると出来過ぎの結果」と謙虚に語った。

 タイトルを奪われた渡辺二冠は「もうちょっと何とかしたかった」と振り返った。それにしても、竜王9連覇などの実績を持つ実力者の渡辺二冠を相手に4連勝でのタイトル奪取は見事の一言だ。2020年の第91期棋聖戦でタイトル獲得の最年少記録を更新した時の相手も渡辺二冠だった。

 昨年秋の第34期竜王戦でも豊島将之竜王から4連勝でタイトルを奪うなど、タイトル戦では連戦連勝である。これまで7度のタイトル戦に登場して25勝4敗。全て奪取あるいは防衛を果たしている。

 王将戦や竜王戦など2日制のタイトル戦に限れば16勝1敗と圧倒的な戦績である。長考派の藤井五冠にとって持ち時間の長い2日制はやりやすいようだ。

 羽生九段は「19歳での五冠達成は驚嘆すべき大記録。一方で昨今の内容の充実ぶりを考えると不思議ではないとも思う」との談話を寄せた。将棋界の第一人者である羽生九段から見ても、藤井五冠の強さは傑出しているということだろう。

 藤井五冠は最新のディープラーニング(DL)型将棋AI(人工知能)も活用するなど、強さにさらに磨きを掛けている。全棋士の中でDL型将棋AIの示す最善手に最も近い手を選んでいるという。

 一方、AIを参考にしつつ、未知の局面で考え抜き、正しく形勢判断する力を伸ばすことも怠らない。五冠達成後も「今後、そういう立場に見合う実力を付けていけたら」と向上心が衰えることはない。

 将棋界では藤井五冠が大活躍する一方、羽生九段が第80期名人戦・A級順位戦での成績が振るわず、連続29期在籍したA級から降級することが決まった。藤井五冠を中心とする新しい時代の到来を象徴する出来事と言えよう。

 ライバル出現にも期待

 このままいけば、藤井五冠の八大タイトル独占も夢ではないだろう。それが楽しみな半面、将棋ファンとしては藤井五冠に立ちはだかるような強力なライバルの出現にも期待したい。

 今回の王将戦は内容的には接戦が多く、渡辺二冠が勝利できるチャンスもあった。次に藤井五冠と対戦する時は、実力を遺憾なく発揮してほしい。