【社説】ウクライナ 「フィンランド化」には反対だ
ロシアのプーチン大統領とフランスのマクロン大統領が、ウクライナ問題をめぐってモスクワで会談した。
会談ではマクロン氏がロシアに配慮し、ウクライナを「フィンランド化」する案に言及した可能性がある。しかし、ウクライナの主権をないがしろにするロシアに妥協するような案には同意できない。
仏露首脳が安保構想協議
マクロン氏はプーチン氏に欧州の安全保障に関する構想を説明。プーチン氏は「今後の共同措置の基礎とすることは十分可能だ」と語った。
構想の内容は明らかになっていないが、仏紙フィガロによると、マクロン氏は会談前、冷戦時代に軍事同盟に参加せず隣国旧ソ連と共存したフィンランドのように、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟しない案が「協議のテーブルにある」と述べていた。マクロン氏がこの案を軸にプーチン氏と協議したのであれば問題だ。
ロシアはソ連の勢力圏だったウクライナのNATO加盟を阻止するため、ウクライナとの国境付近に10万人以上の部隊を集結させている。だが、各国には自国の安全保障体制を選ぶ権利がある。ロシアのやり方はウクライナの主権をないがしろにするものだ。ウクライナのフィンランド化はロシアの動きを追認するものにほかならない。
当のフィンランドはNATO未加盟だが、近年はロシアによるウクライナ南部クリミア併合などを受け、NATOとの連携を強化している。このことを昨年末にロシアに批判されると、フィンランドのニーニスト大統領は今年年頭の声明で「フィンランドの戦略と選択の自由には、NATOへの加盟申請の可能性が含まれる」と述べた。他国の安全保障政策に介入するかのようなロシアの姿勢が反発を招くのは当然である。
一方、プーチン氏は最近、ウクライナ東部で親露派武装勢力と紛争を続けるゼレンスキー政権が、和平実現に向けた2015年の「ミンスク合意」を履行していないと繰り返し非難している。合意には親露派への自治権付与が盛り込まれており、ゼレンスキー政権が合意を履行すれば、ロシアが矛を収めようとしているとみることもできる。
ウクライナ政府に東部のロシア系住民に配慮した政策が求められるのは確かだ。しかし、それはあくまでもウクライナ政府が主体的に行うことであり、親露派を軍事支援するロシアの圧力を受けてなされるものではない。ウクライナが自治権付与の前提条件として東部国境管理の回復を挙げていることは理解できる。
ミンスク合意にはフランスも関与した。ウクライナに合意を履行させるのであれば、マクロン氏はロシアに親露派への支援や工作活動などの停止を求める必要がある。
信頼得られぬ衆院決議
衆院はウクライナ情勢の改善を求める決議を採択した。「いかなる国であろうとも、力による現状変更は断じて容認できない」と強調したが、ロシアを名指しで批判することは避けた。直接批判しなければ国際社会の信頼は得られない。