【社説】23区転出超過 地方への流れ強く後押しを


東京

 東京一極集中に変化の兆しが起きている。総務省が公表した2021年の人口移動報告によると、東京23区で14年以降初めて転出超過となった。新型コロナウイルスの感染拡大やテレワークの普及によるものとみられるが、一時的なものに終わらせてはならない。

 都の転入超過は過去最少

 住民基本台帳に基づくこの報告によると、東京23区への転入者は36万5174人、転出者は38万2人で、1万4828人の転出超過となった。東京都全体では、42万167人の転入、41万4734人の転出で転入超過となったが、転入者数は前年比8割減で過去最少を記録した。

 都道府県別で転入超過だったのは、東京圏4都県と大阪、福岡など10都府県だが、茨城、群馬、山梨が転入超過に転じた。

 もっとも東京都からの転出先を見ると、神奈川、埼玉、千葉の近隣3県が半数以上を占めている。首都圏への集中は続いており、劇的な変化が起きているとまでは言えない。

 東京への一極集中の流れは、これまで政府が是正に向けて旗を振ってきたが、一向に変わらなかった。それが新型コロナ感染拡大によって人々の意識や価値観に変化が起きつつある。何よりテレワークの普及で、東京や首都圏に住む必要のなくなった人が増えたことは大きい。

 まだ小さな流れではあるが、この変化を政府や地方自治体は見逃すべきではないだろう。新型コロナという禍を転じて福となすには、政府や自治体の強力な後押しが必要である。

 金子恭之総務相は「東京一極集中の是正は喫緊の課題で、都市部から地方への人の流れをより一層力強いものとしていくことが重要だ」と述べた。

 期待されるのが、岸田文雄首相が看板政策の一つに掲げる「デジタル田園都市国家構想」だ。デジタル化によって地方と都市の情報・通信ギャップを埋め、地方に新たな雇用を創出することで東京一極集中を是正しようというものだ。高速大容量通信規格「5G」の全国整備、230万人のデジタル人材養成などに5兆7000億円を計上している。地方や都市郊外で本社業務を行うサテライトオフィスの導入も進めている。

 デジタル化の推進でハイテク産業、観光、そして農林水産業などの新たな成長が期待できる。豊かな自然、特産品や独特の文化など日本の地方は潜在力を秘めている。

 子育て世代にとっても地方は魅力的だ。自治体も移住者の誘致のためにさまざまな努力を行っているが、自治体に対する国の支援体制の強化も必要だ。

 デジタル田園都市国家構想を中核に、子育て、教育、文化、環境保護、防災など総合的な施策を打ち立て、今生まれつつある地方への人の流れをより力強いものとしていく必要がある。

 受け入れ態勢の整備急げ

 新型コロナがやがて収束した場合、再び東京一極集中が加速するとの見方もあり、その可能性は十分ある。

 しかし人々の価値観や意識の変化は、一時的なもので終わらないだろう。デジタル化と地方の移住者受け入れ態勢の整備が早急に求められる。