【社説】外交・安保政策 敵基地攻撃能力の保有を
2022年は岸田政権の実力と真価が問われる年である。中でも安全保障や外交の分野で取り組むべき課題は多い。
国家安保戦略改定へ
岸田文雄首相は本年末をめどに国家安全保障戦略や防衛計画大綱などを改定し、防衛力強化に向け「敵基地攻撃能力の保有も含め、あらゆる選択肢を検討する」意向を示している。
近年、中国や北朝鮮の軍事的脅威は増大しており、ロシアも極東方面での軍事活動を活発化させている。中でも北朝鮮が昨年9月に発射実験を行った長距離巡航ミサイルや、中露が開発を進める極超音速ミサイルは、いずれも低い軌道を飛翔し、高度や方向も変えられるため、既存の弾道ミサイル防衛システムでは対処が難しく、日本の防衛体制に穴が開いてしまう。
そのため、日本に向けてミサイルが発射される恐れが高まった場合、攻撃を受ける前に自衛隊がその基地や指揮命令中枢を破壊し、被害を未然に防ぐ必要が出てきた。自衛の範囲内であれば、敵基地を攻撃する能力を自衛隊が保持しても憲法上問題がないと政府は解釈している。
これまでは米軍が矛(攻撃)、自衛隊は盾(防衛)の役割分担があった。しかし周辺諸国の脅威の増大に鑑みれば、敵基地攻撃を米軍に委ねるだけではなく、自衛隊もその能力を保持し、長射程ミサイル開発や情報収集体制の強化に取り組むべきだ。
また中国が台湾に武力行使する危険が高まっており、日本が中台紛争に巻き込まれる事態にも備えなければならない。さらに昨年10月、中露が合同艦隊を編成し日本を1周するなど両国が一体となってわが国に軍事的圧力をかける動きも強まっている。日本列島の南北に広がる中露の脅威に同時に対処するには、即応性と機動性を備えた隙の無い防衛体制が必要だ。
さまざまな脅威や状況に対処し、日本の安全を盤石なものとするには、国家安保戦略の改定などで早急に防衛力強化に取り組む必要がある。これが岸田政権の今年最大の課題である。
一方、政権発足後3カ月が経過したが、未(いま)だに正式の日米首脳会談が開かれていない。中国への対応、特に台湾有事の際の日米連携や経済安全保障、人権問題などで意思の疎通を図るため、早期の開催が求められる。
日米同盟を強化するとともに、価値観を共有する自由主義諸国とも連帯し、人権や民主主義を守り抜く決意を世界に示す外交を展開すべきだ。そのためには、中国に対するわが国の姿勢を明確にせねばならない。岸田首相は昨年の自民党総裁選出馬時の公約で「香港の民主主義問題、ウイグルの人権問題に毅然(きぜん)と対応し、民主主義、法の支配、人権などの普遍的価値を守り抜く」決意を示した。
価値観外交で世界主導を
だが政権発足後は、北京冬季五輪への政府関係者派遣の見送りを決定した際にも「外交ボイコット」という表現を避けるなど、中国の人権問題に対する消極姿勢が目立つ。腰が引けた対中政策は、中国に侮られるばかりか、米国や自由諸国の対日不信を招くことにもなる。中国に怯(ひる)むことなく、価値観外交で世界をリードしてもらいたい。