【社説】主張 年頭にあたって


本紙主幹・黒木正博

警戒すべき新冷戦下の思想混迷

2022年

 2022年の年が明けた。今年もさまざまな「歴史」の節目を迎える。例えば沖縄の本土復帰50周年(5月)。小泉純一郎首相と金正日総書記との日朝首脳会談20周年(9月)。沖縄は辺野古移設に見る米軍基地と東アジア安全保障の確保とのバランスが依然重い課題であり、拉致問題は会談後の一部拉致被害者の帰国以来、何らの進展もない。「節目」で終わらせず一刻も早い解決が望まれる。

中国共産党軸に分断工作

 昨年に引き続き、今年も国際舞台における“主役”は中国といっていいかもしれない。コロナパンデミックの発生源、ウイグル族をはじめとした少数民族への弾圧、南シナ海への軍事的膨張、香港の民主化阻止に加え、近年激しさを増す台湾への軍事面を中心とした圧力…。特に台湾への攻勢は「6年以内の台湾侵攻がありえる」(昨年のデービッドソン米インド太平洋軍司令官=当時)と警戒されるほど緊迫した段階に入っている。

 これに対して米国はトランプ前政権から中国への対決姿勢を強め、現バイデン政権も表向き強硬な対応を示している。欧州各国も経済的な関係を中心に中国に融和的だったが、さすがに台湾との政府要人の交流や西太平洋海域への艦艇派遣などで台湾へのコミットを強めている。「米中新冷戦」と呼ばれるゆえんだ。この時代におけるわが国はじめ自由主義的価値観を共有する諸国家が、どう連携してこうした事態に対応していくのかが深刻に問われている。

 その際重要なのは、防衛予算など安全保障対策の強化とともに、日米同盟の深化と同盟・協力国の拡大だろう。これまでの日米豪印のクアッドがその第一歩にあたる。かつて米ソ冷戦時の1981年、カーライル・トロスト米第7艦隊司令官(中将、のちに米海軍制服組トップの作戦部長)が本紙・世界日報の単独インタビューで、ANZUS条約(米、ニュージーランド、豪)に日本を加えた「JANZUS」条約の構想を表明している。日本の同地域での役割の重要性を訴えていたことは当時と変わっていない。

 そして、それ以上に留意すべきは、中国共産党と、それと連なる思想的な分断工作にも具体的な対策を講じていくことである。

 第2次世界大戦後の米ソ冷戦は、89年のベルリンの壁そして昨年30周年を迎えたソ連崩壊(91年)で終結した。当時は冷戦終結により「平和の配当」という言葉が喧伝(けんでん)されるほどポスト冷戦の期待が高まっていたが、現実はその後の歴史が示す通り、米ソの縛りから“解放”された各国はそのエゴ、利害が一挙に噴出した。それは同盟関係であっても同様で、地域紛争、衝突の火種が次々と起こる、まさに「パンドラの箱」を開けた状況が展開されたのだ。

 だが、ここアジアでは冷戦構造は崩壊しなかった。朝鮮半島さらに中台関係はそのまま温存され、中国が旧ソ連に代わり米国の一方の雄として台頭した。鄧小平の改革開放経済路線で国力の充実を図り、それに比例して軍事力を増強してきた。今や米国に肉薄し、追い抜くのも間近とされる。

 とはいえ、中国としては、米ソ冷戦とソ連崩壊を教訓としていることは間違いない。「武力を用いずして勝つ」という、いわば軍事力を最終的切り札にした情報戦、親中勢力への肩入れ、宣伝戦など、いわゆる「ハイブリッド型」侵攻がその基本だ。安倍晋三元首相は「台湾有事は日本有事でもある」と強調したが、それは狭義の安全保障だけでなく、そうした「ハイブリッド型」戦はすでに日本有事として進行しているといってもいい。

天意知る慧眼の士登壇を

 米国もその例外ではない。むしろ最大の標的として思想的に大きく内部から揺さぶられている。BLM(ブラック・ライブズ・マター)運動、LGBT、解放神学、さらには建国以来の偉人を否定しその銅像を撤去、米軍にも浸透するマルクス主義思想など米国伝統の価値観が屋台骨から揺らいでいる。

 イタリア共産党創設者の一人であるアントニオ・グラムシは、それぞれの各国の事情に応じた「国民的な道」を通って社会主義から共産主義革命の実現を標榜(ひょうぼう)したが、こうした形を変えた共産主義的思想が自由民主主義国における今後の大きな課題ともいえる。

 その意味で政治はそうした観点からも見据えた対応が求められる。プロシアの政治家オットー・フォン・ビスマルクは「政治家の仕事は、歴史を歩む神の足音に耳を傾け、神が通り過ぎるときに、その裳裾(もすそ)をつかもうとすることだ」と述べた。政治家だけではないが、謙虚に人知を超えた存在への畏敬、そして「天意」を知る慧眼(けいがん)の士の登壇が待たれている。

●=登におおざと