【社説】藤井最年少四冠 新時代開いた圧倒的な強さ
第34期竜王戦7番勝負を4連勝で制し、王位、叡王、棋聖と合わせて最年少四冠となった藤井聡太四冠。これまでも数々の最年少記録を達成してきた19歳の天才棋士が、新たな金字塔を打ち立てた。
羽生九段の記録を更新
将棋界での四冠達成は6人目で、19歳3カ月は、羽生善治九段の22歳9カ月を28年ぶりに塗り替える最年少記録だ。八大タイトルの半数を獲得し、名実共に「藤井時代」の幕開けとなった。
竜王戦で破った豊島将之九段との対戦成績は、昨年まで公式戦で6戦全敗だった。しかし今年に入って、二人の間で戦われた王位、叡王、竜王の三つのタイトル戦は全て藤井四冠が制し、苦手を克服した。
藤井四冠は14歳2カ月のプロ入りや17歳11カ月のタイトル獲得など、さまざまな最年少記録を残してきた。今回の最年少四冠で新たな記録が加わったが、それでも「内容は課題が多いので、今後改善していけたら」と語った。謙虚さと向上心を併せ持つ藤井四冠の人柄は、将棋人気にも大きく寄与していると言えよう。
今年は強さにさらに磨きがかかった。この圧倒的な強さを支えるのは、トップレベルの棋士をも凌駕(りょうが)する読みの深さ、正確さだ。今年の叡王戦第5局の終盤では、誰もが予想しなかった手を1分で指し、これが叡王奪取につながった。1秒で数千万手を読む将棋AI(人工知能)が、相当時間をかけて「最善」と判断した手は「AI超え」と絶賛された。
将棋の勉強にAIを使いこなす藤井四冠だが、棋士も参考にするAIの形勢判断をうのみにせず、自分の頭で局面を徹底的に考え抜くという。豊島九段は竜王戦での藤井四冠について「2日間、ずっと盤をにらんで考えている。集中力が常人離れしていて、才能だと感じる」と話している。
藤井四冠の通算勝率は8割を超える。それでもおごることなく、並外れた集中力で日々の努力を積み重ねていることも強さの秘訣(ひけつ)だろう。
将棋の力を伸ばす以外にも工夫が見られた。もともと長考することの多かった藤井四冠は、相手より先に持ち時間を使い切り、秒読みに追われて指し手を間違えることが課題だった。しかし、今年は残り時間を小まめに確認するようにし、極端な長考を減らすことで確実に勝ち切るようになった。
藤井四冠は竜王戦後に第71期王将戦の挑戦権も獲得。年明けから最年少五冠を目指し、名人、棋王と合わせ三冠の渡辺明王将との七番勝負に臨むことになった。その勢いはとどまるところを知らない。かつて羽生九段が「七冠制覇」を成し遂げたように、八大タイトル独占も夢ではないだろう。
先輩棋士は意地見せよ
しかし勝負の世界は、王者に立ちはだかる強大なライバルがいてこそ盛り上がる。
豊島九段は竜王戦後、第42回将棋日本シリーズJTプロ公式戦の決勝で藤井四冠に勝利して連覇を果たした。渡辺三冠をはじめとする先輩棋士も意地を見せてもらいたい。