【社説】拉致問題 全被害者の帰国実現を急げ


拉致被害者

 13歳の中学生だった横田めぐみさんが北朝鮮に拉致されてから44年が過ぎた。

 めぐみさんをはじめとする拉致被害者の家族は高齢化が進み、被害者との再会を果たせずに世を去る人も増えている。政府は一日も早く、全ての被害者の帰国を実現すべきだ。

 首相「私の手で必ず解決」

 岸田文雄首相は拉致問題解決を求める「国民大集会」で「私の手で必ず解決しなければならないと強く考えている」と強調。北朝鮮の金正恩総書記との直接会談に意欲を示した。

 拉致被害者は2002年10月に5人が帰国して以降、一人も日本に戻れずにいる。同年9月の日朝首脳会談で当時の金正日総書記が拉致を認めたが、その後の北朝鮮は「拉致問題は解決済み」との立場だ。

 しかし全ての被害者の帰国が実現しなければ、解決したとは言えない。被害者をめぐっては、政府が認定する未帰国の12人のほか、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない特定失踪者が900人近く存在する。被害者家族会の飯塚繁雄代表は、集会で「絶対に解決を諦めるわけにはいかない」と訴えた。

 家族の高齢化が進む中、昨年6月にはめぐみさんの父滋さんが、めぐみさんと再会できないまま亡くなった。母早紀江さんは集会で「13年間しか育てられなかったことが本当に悔しい」と悲痛な胸の内を明かした。首相は北朝鮮の国家犯罪を厳しく追及し、全被害者の帰国と共に実行犯の引き渡しを強く求めるべきだ。

 もっとも、拉致問題の解決が簡単でないことも事実である。現在、北朝鮮は米国の対話呼び掛けに応じず、日朝交渉の機運は乏しい。

 だが国内外の情勢が変化すれば、北朝鮮が対話姿勢をアピールしてくることも考えられる。北朝鮮は14年5月、日本との間で「ストックホルム合意」を交わした。

 合意では、北朝鮮が日本人拉致被害者らの再調査を約束し、特別調査委員会を設置する一方、日本が調査開始時に独自制裁を一部解除することを決めた。背景には、正恩氏が中国とのパイプ役だった叔父の張成沢氏を処刑したことで中国との関係が悪化し国際的孤立が深まったことがある。

 しかし日本が14年7月に人的往来や送金の制限を解除し、北朝鮮籍船舶の入港も人道目的に限って認めたにもかかわらず、北朝鮮は同年9月に調査状況の報告先送りを通告した。核実験や弾道ミサイル発射を繰り返したため、日本が新たな独自制裁を決定すると、反発した北朝鮮は再調査の全面中止と調査委の解体を宣言。拉致問題解決には結び付かなかった。北朝鮮が今後、歩み寄ってきた場合、首相はその狙いを慎重に見極める必要がある。

 スパイ防止法の制定を

 北朝鮮による拉致問題は、日本にとって大きな悲劇である。再発を防ぐには、外国のスパイや工作員を取り締まるための法整備や体制構築を進めなければならない。

 政府はスパイ防止法の制定と強力な防諜(ぼうちょう)機関の創設を急ぐべきだ。