【社説】電車内の凶 行避難の在り方が問われる
東京都調布市を走行中の京王線車内で乗客17人が刺されるなどした事件が発生した。逃げ場のない電車内の凶行にどう対処するかが問われている。
窓を開けて車外に避難
事件を起こした服部恭太容疑者は、調布駅で特急に乗車直後、近くに座っていた都内の男性会社員にスプレー缶を噴射。刃渡り約30㌢の刃物で右胸を刺し、男性は意識不明の重体となった。別の車両に移動した服部容疑者は、ライターオイルをまいてライターで火を付け、スプレー缶に引火して爆発した。
逃げ惑う乗客や叫び声で車内はパニックになった。電車は通過予定だった国領駅で緊急停車したが、車両はホームの適正位置の1~2㍍手前で停車したため、ドアとホームドアがずれた状態になった。
車掌は、ドアやホームドアを動かせば避難中の乗客らがホームなどに転落する恐れがあると判断し、両方とも開けなかった。一部の乗客らは窓を開け、ホームドアを乗り越えて車外に避難したが、刃物で刺された男性のほか、煙を吸うなどした16人が病院に搬送された。
殺人未遂容疑で逮捕された服部容疑者は、人気映画「バットマン」シリーズの悪役「ジョーカー」に似た服を着ていた。「仕事で失敗し、友人関係もうまくいかなかった」「死刑になりたい」などと供述しているという。身勝手な犯行に同情の余地はないが、この事件で乗客の避難の在り方が焦点となっている。
電車が適正位置の手前で停車したのは、乗客がドアを開けようと非常用ドアコックを操作したためだ。コックを使うと電車は加速できなくなる仕組みで、前に進めなかったという。
服部容疑者が襲撃時に所持していたライターオイルは3㍑超に上るとみられ、避難が遅れていればさらに被害が拡大した恐れがある。事件を受け、国土交通省は緊急時にはドアとホームドアがずれた場合でも、双方の扉を開けて乗客を誘導するよう鉄道各社に指示した。安全な誘導の仕方が課題となる。
事件当時、車内の非常通報ボタンが何度も押されたが、マイク越しに車掌に状況を伝えられた人はいなかった。通話機能が知られていなかった可能性もある。こうした装置を有効に機能させるための対策も必要だ。
今回のような事件はこれまでも起きている。2018年6月には、東海道新幹線でなたを持った男が乗客3人に切りつけ、1人が死亡、2人が負傷する事件が起きた。今年8月には、小田急線で男が包丁を振り回し、乗客10人が切られるなど重軽傷を負った。服部容疑者は小田急線の事件を参考にしたという。
できる限りの対策講じよ
京王線の事件の後も、東京メトロ東西線で50代の男が車内で突然千枚通しのような工具を見せ、近くに座っていた男女に詰め寄る事件があった。九州新幹線では、男が床に液体をまき、火を付けた紙を投げ込んだ。どちらの事件もけが人は出なかったが、こうした犯罪を防ぐことは簡単ではない。
それでも、鉄道各社は車両内の防犯カメラ設置や巡回強化など、できる限りの対策を講じて犯罪抑止に努める必要がある。