【社説】対中軍事報告 日本は米台との連携強化を


中国の極超音速ミサイル「東風17」=2019年10月、北京(EPA時事)

 米国防総省が中国の軍事力に関する年次報告書(2021年版)を公表し、台湾の武力統一を実現するだけの軍事力が整いつつあるとの見方を明示した。

 台湾有事は日本有事である。日本は米台との連携を強化し、中国を抑止するための防衛力増強や法整備を進めるべきだ。

戦力強化で介入に対抗

 報告書は、中国が30年までに少なくとも1000発の核弾頭を保有する意向を持っている可能性があると分析。国防総省が昨年9月に公表した報告書では、中国の保有核弾頭数を「200発台前半」と推計し、今後10年で倍増すると予想していた。今回の報告書では、人民解放軍創設100年を迎える27年までに「核弾頭700発の保有が可能になる公算が大きい」と指摘している。

 中国の習近平国家主席は台湾統一に向けて「武力使用を放棄することは承諾できない」と述べている。報告書は、中国が台湾の武力統一を視野に、27年までに軍の機械化や情報化に加え、組織や兵器、兵士の近代化ペースを加速させることを目標に掲げていると説明。「その目標を達成すれば、中国は台湾有事においてより信頼のおける軍事的選択肢を手にすることになる」と危機感を示した。

 こうした軍事力の強化は、米国を念頭にした強敵に戦争で勝つためとして、とりわけ台湾有事に備えて「第三国の介入に対抗」しようとしていると指摘している。中国は多彩なミサイルを大量に配備し、中国本土に近づく米軍の艦船や戦闘機を攻撃する態勢を整えている。

 報告書は、中国が極超音速兵器を搭載可能な中距離弾道ミサイル「東風17」を20年に実戦配備したと指摘。極超音速兵器は音速の5倍超の速さで飛行し、現行のミサイル防衛システムでは迎撃が困難とされる。主要な米軍基地がある米領グアムを射程に入れる中距離弾道ミサイル「東風26」の在庫も増やした。

 今年4月の日米首脳会談では共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性」が明記された。中国が台湾に侵攻する場合、東シナ海の制空権、制海権を確保するため、沖縄県の尖閣諸島にとどまらず先島諸島を奪取、制圧し、さらに米軍が駐留する沖縄本島を攻撃することも想定しておく必要がある。

 こうした事態に政府が迅速に対応するには9条など憲法改正も大きな課題となる。今回の衆院選で、自民、公明の与党と改憲勢力の日本維新の会、国民民主党の議席が改憲の国会発議に必要な3分の2を超えた。

 中国による台湾侵攻に備えて改憲を実現すべきだ。これとともに、自民公約の国内総生産(GDP)比2%以上も念頭に置いた防衛費の増額によって防衛力を増強し、自衛隊と米軍との相互運用性を向上させることも求められる。

「交流基本法」の制定急げ

 台湾の民間シンクタンクの世論調査によれば、台湾人の約6割が「台湾有事の際に日本が自衛隊を派遣するだろう」と考えている。日本は台湾を守るための法整備を進め、政治や外交、経済、防衛などの相互交流に関する「日台交流基本法」の制定を急ぐべきだ。