【社説】コロナ禍と文化 「新日常」で新たな創造を


文化の日

 きょうは文化の日。新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)が長引く中、文化・芸術活動は大きな打撃を受けている。一方、コロナ禍において改めて文化の価値を知らされることも少なくない。収束の兆しが見えつつある今、ウィズコロナを前提にした活動の活発化が期待される。

ほとんどの活動に打撃

 コロナ禍はほとんどの文化活動に打撃・制約を与えた。感染リスクが比較的少ないと思われる美術館や博物館でも、企画展などは低調だった。最も影響を受けたのは、音楽コンサートや舞台芸術だ。歌舞伎の大名跡、十三代目市川團十郎の襲名披露公演も2年延期となった。

 しかし、文化・芸術それも生のパフォーマンスに触れたいという人々の欲求は根強い。アーティストも表現の場、直接観客と触れ合う場を欲している。そういう中、感染対策をさまざまに講じ、規模を縮小しながらも公演を続けてきた。

 歌舞伎公演では、客席からの掛け声は控えられ、拍手だけ。こういった主催者や観客の努力で、劇場内でのクラスター(感染者集団)は生じていない。今後のウィズコロナの公演や活動に生きてくると思われる。

 今月に入って、東京都など27都道府県で開く大規模イベントで上限1万人としていた人数制限が解除されたが、これまでの経験を踏まえ、感染対策を続ける必要がある。観客を増やすに際しては、ワクチン接種証明の提示を求めることも選択肢の一つだろう。

 政府は活動制限で厳しい環境に置かれた文化・芸術、スポーツ関係者や団体の活動継続、再開を支援するため、令和2年度第2次補正予算で個人への最大150万円支給を含む総額509億円の支援を決めた。第3次補正でも公演のキャンセル費用なども補助する「アーツ・フォー・ザ・フューチャー!」に250億円を盛り込んだ。

 芸術は鑑賞者があってこそ完成する。特にコンサートや舞台芸術は演者と観客のやりとりの中で命が吹き込まれる。ウィズコロナの中で新しいやりとりが生まれることを期待したい。

 コロナ禍の中では、地方の伝統行事や祭礼の多くが中止になったり、規模が縮小されたりした。これらは年中行事として毎年欠かさず行われてきたものである。実施されずに、物足りなさを感じている人も少なくないと思われる。

 祭礼や伝統行事が、いかにわれわれの精神生活を支えてきたかを改めて知らされた人も少なくないだろう。こうした行事の多くは、地域の人々の自主的で地道な努力によって継承されてきた。行事が途絶えることのないように、政府や自治体は支援策を講じるべきである。

生活文化も守りたい

 文化審議会は伝統的な酒造りの技術と書道の技法を登録無形文化財とするよう答申した。生活文化が無形文化財となるのは初めてのことだ。

 生活文化の中にこそ日本文化の基礎がある。それは最も自然な形で継承されていくが、いつの間にかすたれていく恐れもある。祭礼など「ハレ」の行事とともに「ケ」の日常生活に根差す文化も守っていきたい。