【社説】原発政策争点 第4世代推進で闊達な議論を
衆院選挙に際し岸田文雄首相は、東京電力福島第1原発事故で被災した福島県に入り、同原発の「廃炉が復興の前提」と語るとともに原発新設については既存原発の再稼働の次の課題との認識を示した。原発の技術革新による安全性向上と実用化の論議を排除すべきではない。
各国が実用化へ競争
福島の原発事故は世界的に脱原発世論を助長し、地球温暖化対策の二酸化炭素(CO2)削減も相まって再生可能エネルギーへの転換を掲げることは政策的流行になっている。が、原発もCO2を排出せず、温暖化対策に大きく貢献することを国際原子力機関(IAEA)は特別報告書で指摘した。
現在、軽水炉など第3世代原子炉に代わる第4世代原子炉の開発が米国、英国、カナダ、フランス、中国、ロシアなどで進められている。より安全で建設費が安く可搬性のある小型モジュール炉(SMR)の近い将来の実用化に向けた競争に拍車が掛かっている。
中国は海南省でSMR「玲龍一号」の実証実験に夏から入り、また冷却水のいらない溶融塩原子炉の開発に着手している。米、英、仏、カナダもそれぞれ官民で開発を進めており、船舶型原発を北極海沿岸に就航させているロシアは、サハ共和国で陸上型SMRを建設する。
わが国では反原発世論が根強く、今回の公約でSMRに言及したのは自民党と日本維新の会にとどまった。自民党は、安全性が確認された原発の再稼働を掲げ、さらに蓄電池、水素、SMRの地下立地などへの投資を後押しする政策だが、連立を組む公明党は、原発依存度を下げて新設を認めずに「原発ゼロ」を目指すとしている。
自民・公明と対決する立憲民主党は、原発新設を認めず、原発のない社会に向けた不可逆な方針を確立し、CO2など温室効果ガス排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルへの取り組みでも原子力に依存しないとしている。共闘する共産党、れいわ新選組、社民党なども原発に否定的だ。
各党の公約に風力、太陽光などクリーンな再生エネルギー開発は異口同音に取り上げられているが、2018年の電源構成で再生エネルギーは17%、原子力6%、天然ガス、石炭、石油など火力が77%だった。CO2を排出する火力発電が増え、最近では天然ガスなど燃料の高騰も問題だ。
政府は、気候変動をもたらす温暖化対策の脱炭素社会に向けて、30年度の電源構成で原子力を20~22%程度にする方針だ。東日本大震災後、原子炉等規制法改正によって原発の耐用年数は「40年」とされた。
その厳守を前提とすれば原発新設なくして原子力の比率を上げることは困難であり、脱炭素社会実現の見込みも薄くなる。第4世代原子炉開発は注目されるべきだ。
技術革新で安全利用を
IAEAは50年の原発発電容量が昨年の約2倍になると予測しており、今や世界は脱原発一辺倒とは違う流れにある。
技術革新による安全な原子力利用について闊達(かったつ)な議論を期待したい。