酒造り・書道 生活文化の価値再認識しよう


 文化審議会は、日本の伝統的な酒造りの技術と書道の技法を登録無形文化財とするよう末松信介文部科学相に答申した。近く正式登録される。食文化や書道などの生活文化が無形文化財となるのは初めてだ。

 いずれも国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産への登録を目指しているが、これが弾みとなることを期待したい。またわれわれ自身が、身近な伝統文化の価値を再認識し、今後も守り育てていくことが求められる。

無形文化財として登録へ

 登録される技術は、日本酒や焼酎など米か麦をこうじの原料とし、伝統的な黄こうじ菌を使うなどした酒造り。書道では、筆や墨を使い、漢字や仮名などを書く伝統的な技法が対象だ。文化審議会は、それぞれの文化財の保持団体として、600人以上の杜氏(とうじ)らが所属する「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会」、代表的な書家41人が集まる「日本書道文化協会」を認定するよう答申した。

日本の伝統的酒造り技術が登録無形文化財に

登録無形文化財に答申された伝統的な酒造りの技術の一つ。三重県鈴鹿市の酒蔵で、米からこうじを造っている=8月30日(文化庁提供)

 これまで無形文化財は芸能分野や工芸分野を保護する指定制度しかなく、多様な文化財を保護しようと登録制度が6月に施行された。

 伝統芸能では能や歌舞伎、文楽など、伝統工芸では蒔絵や漆芸などの芸術性の高いものがこれまで無形文化財に指定されてきた。今回の酒造りと書道は、より実用的で身近な生活文化だ。しかし、価値が低いわけではもちろんないし、生活に根差した分、それがもたらす恩恵も大きい。そして、これらの文化財は、陰ながら努力する人々があって初めて保たれていることを忘れてはならない。

 伝統的な酒造りは、杜氏が主に担ってきた。明治以降、機械化が進み、大手酒造メーカーを中心に安価でおいしい日本酒が販売されるようになった。一方で近年は、米麹だけを使った純米酒が人気を呼び、地方の個性を生かした酒造りで、いわゆる地酒ブームが起きている。

 今回の無形文化財登録の答申には、このような日本酒造りや消費者の動向も背景にあったとみられる。杜氏による手作りの味や価値が広く認識されるきっかけとなり、その保存と継承の支えとなることが期待される。

 書道は漢字とともに中国から伝来したが、和様と呼ばれる漢字の書風が生まれ、三筆、三蹟などの優れた書家を輩出。そして、和歌文化の隆盛に伴い流麗な仮名の書も発展した。

 さらに明治以降、一般庶民にも学校教育で普及し、書道は国民の生活文化の一部となった。ところが、万年筆やボールペンなど筆記用具の発達・普及によって筆書きの機会は減り、近年はワープロやインターネットによるメールの普及で文字を書くこと自体が減ってきている。無形文化財への登録を、筆書き、書道の価値を日本人自身が再認識するきっかけとしたい。

世界に誇り発信したい

 伝統的な酒造り、書道はともに世界に誇る日本の生活文化である。世界各国、各民族に独自の文化があるが、その中でもユニークで洗練されたものと言える。ユネスコの無形文化遺産への登録も実現させ、世界に発信していきたい。