いじめ自殺10年 重大事態は犯罪として対処を
大津市でいじめを受けた市立中学2年の男子生徒が自殺してから10年が経(た)った。自殺を契機にいじめ防止対策推進法が制定されたが、いじめは後を絶たない。実効性を高める法改正など対策強化が必要だ。
依然として深刻な状況
男子生徒は2011年10月11日、自宅マンションから飛び降りた。学校が実施した全校生徒対象のアンケート調査では「自殺の練習をさせられていた」などといじめに関する情報が多数寄せられたにもかかわらず、市教委が公表せず、自殺との因果関係を認めなかったことが批判を浴びた。
13年6月に制定されたいじめ防止対策推進法は、いじめの定義を対象にされた児童・生徒が「心身の苦痛を感じているもの」と規定。心身や財産に重い被害が生じた疑いがあったり、長期欠席を余儀なくされたりしている時を「重大事態」とし、インターネットを通じた攻撃も含むと明記した。重大事態が生じた場合、学校側が調査組織を設置することを義務付けている。
しかし、いじめの根絶には程遠い。全国の小中高校での20年度のいじめ認知件数は前年度よりは減少したものの、51万件以上に上っている。最近も北海道旭川市や東京都町田市でいじめを苦にしたとみられる自殺が相次いで発覚するなど依然として深刻な状況が続いている。
町田で昨年11月、市立小学6年の女児が自殺した事案では、小学校に配備されたタブレット端末のチャット機能を使って女児に対する悪口がやりとりされていた。学校側は自殺前にいじめの兆候を把握していたが、当事者同士で解決したと判断して女児の両親に伝えていなかった。こうした教育現場の事なかれ主義は、大津のいじめ自殺の頃から変わっていない。
男子生徒の父親は法改正を訴え続けている。重大事態での学校側の調査組織設置については「当事者ではきちんとした調査ができるとは思えず、中立性の観点からも見直すべきだ」と指摘している。
いじめ自殺をめぐっては、遺族が学校や教育委員会の説明に納得せず、第三者委員会が再調査するケースも少なくない。国は遺族の切実な声に耳を傾け、法改正をはじめとする対策を強化する必要がある。
学校と警察との協力関係も重要だ。学校は警察の介入を嫌う傾向があるが、心身や財産に重い被害を生じさせることは犯罪にほかならない。学校は深刻な事案が発生した場合、警察への通報をためらうべきではない。
ネット上の誹謗(びぼう)中傷に関し、政府は刑法の侮辱罪を厳罰化するなど厳しく対応する方針だ。ネット上のいじめも犯罪であることを児童生徒に明確に伝えなければならない。
教員がいじめ問題の解決に積極的になるためには、さまざまな雑務を減らし、心の余裕を持てるようにする必要もあるだろう。担任教員が一人で抱え込まないように全校を挙げての協力体制を整えることも不可欠だ。
道徳教育の一層の充実を
大津市のいじめ自殺を受け、小中学校では道徳が教科化された。道徳教育の一層の充実をいじめ根絶につなげたい。