トヨタ不正車検 手抜きで安全を軽んじるな


 トヨタ自動車の系列販売店で不正車検が蔓延(まんえん)していた。最も優先すべき安全確保をおろそかにすることは許されない。

 検査スピードを優先

 この問題をめぐっては、高級車を扱う「レクサス高輪」(東京都港区)で6月に不正車検が発覚。これを受け、全国の販売店4852拠点を総点検した結果、不正車検は計6659台、15社・16店舗に上った。不正の見つかった店舗では、規定の時間内に作業を終えることが目的化し、排ガスや速度計の未検査、ヘッドライト光度の改竄(かいざん)などが行われていた。

トヨタのロゴマーク(UPI)

 車検は法律に基づいて、決められた保安基準に適合しているかどうかを定期的に検査する制度だ。国の検査場のほか、国の指定を受けた自動車販売店などで受ける。しかし検査のスピードを優先するあまり手を抜くのでは、何のために車検を行うのか分からない。

 ドライバーは車検の結果を信用して車を運転している。だが故障が発見されなければ、大事故につながりかねない。不正は重大な裏切り行為だと言わざるを得ない。

 国土交通省はトヨタに対し、豊田章男社長宛ての文書で再発防止の徹底を要請する行政指導を行った。また、レクサス高輪の民間車検場の指定を取り消す処分を下した。佐藤康彦・国内販売事業本部長は「皆さまにご心配とご迷惑をお掛けした。お客さまの安心と安全を優先しなかったことを重く受け止める」と陳謝した。関係者は猛省すべきだ。

 トヨタ系の販売会社では1990年代以降、本社主導で短時間車検サービスを導入した。不正の背景には、仕事量が増え、整備士不足が深刻化する中でもサービスの見直しが行われず、現場に無理が生じていたことがある。

 整備士が予約受け付けや、洗車、車両の引き渡しなど、整備以外の作業を行っていた店舗もあった。本来の業務に集中できない中、目標達成のため、残業を前提とした勤務状況があったという。

 18歳人口の減少や若者の車離れなどで、自動車業界の人材不足は深刻だ。自動車整備士試験(学科)の申請者数は2004年度の約7万2600人から、20年度は3万6630人に半減した。不正をなくすには、こうした構造的な問題にも対処しなければならない。

 トヨタは再発防止に向け、外国人の採用を促進するとしている。給与体系を含めた整備士の処遇面の改善や、作業をしやすくする機器の導入など労働環境の整備も行うほか、売上高や台数を過度に追求する体質が不正の一因になったとみて販売店表彰制度も見直す。

 トヨタの努力と共に顧客の協力も求められよう。車検にある程度の時間がかかることを受け入れ、注文が集中する土日ではなく平日に頼むことなどで販売店の負担軽減につなげたい。

顧客の信頼あっての企業

 今年は三菱電機の検査不正も明らかになるなど、企業倫理が問われる事態が続発している。企業活動は顧客の信頼の上に成り立っていることを肝に銘じるべきだ。