ノーベル物理学賞 日本の国際競争力を高めよ
2021年ノーベル物理学賞を、コンピューターを使った地球温暖化などの予測手法を確立した米プリンストン大の真鍋淑郎上席研究員らが受賞することが決定した。日本人のノーベル賞は19年に吉野彰さんが化学賞を受賞して以来で計28人目(米国籍取得者を含む)。物理学賞は6年ぶり、12人目となる。日本人の科学技術力を世界に示す快挙であり大いに祝福したい。
米国研究機関で成果
真鍋さんは現在の愛媛県四国中央市出身。東京大で博士課程を修了後、米海洋大気局で研究し、米国籍を取得。大気と海洋を結合した物質の循環モデルを提唱し、二酸化炭素が気候に与える影響を世界に先駆けて明らかにするなど、温暖化研究の根幹となる成果を挙げてきた。
これらは主に1960年代の成果だが、現在も最先端のコンピューターシミュレーションに使われている。また人の行動によって発生した二酸化炭素が地球環境に影響を与えるというモデルは、温暖化の議論の中で軸となってきた。今後の温暖化対策や100年単位の長期気象予測、将来にわたる地球環境の維持のために力を発揮することが期待される。
真鍋さんは「米国の自由な研究の場、豊富な資金が与えられ、研究の実が結ばれた」という内容のことを話している。米国で研究を続けた日本人の一人で、2008年のノーベル物理学賞受賞者の故南部陽一郎さんは、これらの研究環境に加え、当時はアインシュタイン博士をはじめ世界的な研究者が周辺にいたため、日常的に交流できたことを利点に挙げている。
米国は海外の人材などを集め自国の技術、産業基盤を強化してきた歴史がある。「人が人を呼ぶ」と言われる。その才能を見つけ、生かす環境が与えられれば、人材は集まるのだ。日本は国際競争力を高め、産官学連携の改革を進めなければならない。それとともに若者が革新的なことを行えるよう、権限と責任を与えることのできる環境を整えるべきだ。
そして国が技術開発の方針を示し、産業界を巻き込みながら大学の研究機関などの成果を広く生かしてイノベーションを起こすようなシステムが必要だ。わが国では、企業と大学の研究機関の人材交流があまりにも少ない。大学に優秀な人材がいても、企業は以前ほど、その人材をピックアップして生かそうとしない。これでは駄目だ。
一方、日本の大学では注目度の高い論文数の順位の後退や若手研究者の減少が続いている。また博士号取得者が直ちに正規の助教職などに着任できず、10年近くも任期付きの契約雇用の職で教育・研究を続けざるを得ないのが現状だ。
その原因の一つは大学に支給される運営費交付金が減っていることだ。運営費交付金は一番基礎的なインフラである研究者を育成するためにあり、是正する必要がある。
科学技術は国力の源
科学技術は国力の源泉であり、平和を維持する抑止力でもある。その向上は、とりわけ資源の少ない日本にとって最重要課題の一つであることを肝に銘ずるべきだ。