池袋暴走に実刑、社会全体で高齢事故防止を


池袋暴走事故で飯塚幸三被告が禁錮5年の実刑判決となった後、記者会見する遺族の松永拓也さん(右)=2日午後、東京都千代田区

 東京・池袋で2019年4月、母子2人が死亡、9人が重軽傷を負った乗用車暴走事故で、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)罪に問われた90歳の被告に対し、東京地裁が禁錮5年の実刑判決を言い渡した。

 重大事故を起こした高齢ドライバーの実刑判決を重く受け止め、社会全体で高齢事故防止に努めるべきだ。

 「真摯な謝罪を」と説諭

 被告は東京都豊島区の都道を走行中にブレーキと間違えてアクセルを踏み続け、時速96㌔まで加速。赤信号を無視して横断歩道に突っ込み、母親と3歳の娘をはねて死亡させたほか、9人に重軽傷を負わせた。

 東京地裁の下津健司裁判長は事故原因について、アクセルとブレーキの踏み間違いによるものと認定するとともに、アクセルとブレーキを的確に操作することは「年齢にかかわらず求められる最も基本的な注意義務の一つ」と指摘。被告は踏み間違いに気付かないまま車両を加速させており、過失は重大だと批判した。

 被告側は公判で「車に何らかの異常が生じた」として無罪を主張していた。被告は過失を否定する態度に終始し、裁判長は「事故に向き合っていない」と断じた。

 被告のかたくなな姿勢は、事故を起こしてしまったことへの無念さからくるものだろうか。しかし、いくら悔やんでも失われた命は戻ってこない。裁判長は「被害者や遺族は真摯(しんし)な謝罪を求めている」と説諭した。被告は、自分の態度が遺族を苦しめてきたことを自覚すべきだ。

 この事故を契機に高齢ドライバーが起こす事故への関心が高まり、運転免許証を自主返納する人が急増した。警察庁によると、池袋暴走事故が起きた19年に免許を自主返納した人は前年から約18万人増え、過去最多の約60万人に上った。うち75歳以上は約6割を占めた。

 だが、20年は前年比8%減の約55万人だった。新型コロナウイルス感染拡大の影響もあろうが、池袋の事故が忘れられつつあるとすれば要注意である。高齢になれば判断力や運転能力の衰えは避けられない。免許を持つ高齢者は返納することが最も望ましい。

 ただ公共交通機関が整備されていない過疎地域では、高齢者が運転せざるを得ない。こうした地域では、免許がないと不便なことは理解できる。

 とはいえ、万一事故を起こしてしまっては元も子もない。国や自治体は地方の交通事業者への財政支援などを充実させ、免許を返納した高齢者の代替交通手段を確保する必要がある。自動運転車に客を乗せるサービスの実用化も急がれる。

 官民挙げての取り組みを

 池袋の事故後、高齢ドライバーによる事故防止のための法改正なども行われた。19年12月には、警察庁の有識者会議が免許証更新時に運転技能検査を行い、合格するまで更新を認めない制度の導入などの事故防止策を公表。20年6月の道交法改正では、過去3年間に信号無視や速度超過などの違反歴がある75歳以上の人への技能検査が義務付けられた。官民挙げての取り組みが求められる。