ゆがめられた沖縄戦~集団自決命令の神話崩壊弁護士 徳永信一
「パンドラの箱訴訟」逆転勝訴
弁護士の徳永信一氏は17日、世日クラブで「ゆがめられた沖縄戦~集団自決命令の神話崩壊」と題して講演した。徳永氏は、連載「パンドラの箱を開ける時(以下、パンドラの箱)」の集団自決命令はなかったとする部分が掲載拒否されたことに対し、執筆者の上原正稔氏が琉球新報社を訴えて逆転勝訴した裁判の原告側弁護人。地元メディアによる沖縄言論界支配の実態を明らかにした上で、控訴審勝訴の意義を説明した。以下はその講演要旨。
琉球新報社に賠償命令-福岡高裁
集団自決軍命の真実性を否認/新証言が次々明らかに
私たちが逆転勝訴した「パンドラの箱」訴訟の裁判は、福岡高裁那覇支部を舞台として戦われた。原告は上原正稔氏という沖縄屈指のドキュメンタリー作家だ。彼は沖縄戦の真実を探求することをライフワークとしている。
一方の被告の琉球新報社は、沖縄タイムス社とともに沖縄の言論界を支配していて、反日左翼の紙面で一貫している。二紙は、沖縄の世論は意のままに操れると驕っている。実際に、世論を演出、捏造し、地元議員を踊らせ、そして、気に入らない者は沖縄言論界から排除して村八分にする。だから、みんな沈黙してしまう。
この琉球新報社を、上原氏が裁判で倒した。賠償金は105万円だが、完全な勝利。上原氏は、「この裁判を逆転勝訴したことによって、長い間、慶良間(諸島)の沖縄住民に自決を命じた鬼とされてきた梅澤裕さん、赤松嘉次さん(故人)の両元隊長の濡れ衣を晴らし、汚名をそそいだ」と、勝利宣言をした。
本件は琉球新報社から原稿の掲載を拒否された上原氏が「掲載拒否は契約違反だ」といって、原稿料と慰謝料の支払いを求めた裁判であって、集団自決の軍命の有無については争点になっていない。判決も軍命の有無については全く触れていない。それなのに何故、「パンドラの箱」訴訟の勝訴判決が梅澤、赤松両隊長の名誉挽回につながるのか。
それを説明するために、まず、「沖縄戦集団自決冤罪訴訟」判決の意義を明確にしたい。
『鉄の暴風』という沖縄タイムス社出版(1950年発行)の本がある。その中に、先の沖縄戦で慶良間諸島の渡嘉敷島での赤松隊長と座間味島の梅澤隊長が住民に非情な自決命令を出したことが迫真の筆致で生々しく書いてある。「渡嘉敷島の赤松隊長は、『米軍の上陸を迎え、ことここに至っては全島民、皇国の万歳と日本の必勝とを祈って自決せよ。軍は最後の一兵まで戦い、米軍に出血を強いてから全員玉砕する』、と命じた」と、まるで見てきたかのような描写だ。
その後、沖縄戦を取り上げた多くの書物がこの部分を引用した。さらに、それを孫引きする文献まで現れた。後に、ノーベル文学賞を受賞する大江健三郎氏が、1970年に著した、『沖縄ノート』(岩波新書)も孫引き文献のひとつだ。『鉄の暴風』の内容を引用して脚色を加えた上地一史著『沖縄戦史』を、大江氏もまたそのまま引用するという図式で、どんどんと集団自決軍命説というものが造られていったのだ。
この事態に対し、梅澤元隊長ご本人と亡き赤松隊長の弟、赤松秀一氏が、岩波書店と大江健三郎氏を相手に、名誉毀損の民事訴訟を大阪地裁に提訴した。これが2005年8月のこと。そして、2008年3月、一審判決では、一応名誉毀損はあると認めてはいるが、その名誉毀損は違法ではないとし、原告の請求は認められなかった。
当然控訴して、2009年11月に控訴審の判決が下りた。何とここでも『沖縄ノート』には、大江氏による名誉毀損の事実があるということは認めながらも、彼らは責任は負わないと、損害賠償請求を退けた。
控訴審の判決は、二人の隊長が集団自決せよと直接住民に命令したという事実については、真実性の証明があるとは言えない、つまり、真実性の証明はないという判断。ところが、「たとえ真実性の証明がなくとも、沖縄ノートの出版とそれが真実だと信じるに相当な理由があり、長期間出版されてきた書物はその後新しい証拠が出るなどして、その真実の理由が失われたとしても、直ちに不法行為は成立しない」というルールを作り、名誉毀損による不法行為を免責した。
ただし、不法行為になる場合もある。それはどういう場合か。「それが真実でないということが明らかだ、と言える場合に限られる」という。つまり、真っ赤な嘘だということを原告側が立証すれば不法行為となるというのだ。だが、それは困難だ。結局、私たちの立証活動はそこにまで及ばなかったと認定されてしまった。それが、われわれが敗訴した理由だ。
結局、争点となった集団自決命令の有無については、「真実性の証明はない」ことが立証されたが、明らかな虚偽だというところまでは証明できなかった。
しかし、裁判の立証活動の中で、沖縄のほとんど全ての住民の陳述や証言に目を通したが、誰一人として軍命があったということを証言していないのが明らかになった。私は、明白な虚偽だ、真っ赤な嘘話だと確信している。
2007年の3月に、文科省が、集団自決の軍命の記載は歴史的真実に疑義があり、教科書に記載するのは望ましくないので削除しろという検定意見を出した。これを受けて、教科書から集団自決命令の記述がなくなった。すると、琉球新報、沖縄タイムスが、沖縄の歴史を歪めるとんでもない検定だと、反教科書キャンペーンを始めた。そして、9月末に、いわゆる11万人集会が那覇で行われた。実際の数は、1万7千とか、2万だと言われている。そういう水増しの集会を報道して、国会に陳情するというスタイルを取った。
上原氏は、琉球新報に連載する「パンドラの箱」のために、集団自決を目撃した米兵の日記や自身が慶良間、座間味に足を運んで、生き残りの人たちの証言や文献を調べて、軍命はなかったということを書いた。それが9月の11万人集会の前の6月のこと。ところが、その原稿の掲載が拒否された。
結局、連載は再開されたが、それが集会の終わった10月だ。しかも、再開後も集団自決の部分は掲載することがなかった。琉球新報が連日、検定意見撤回のキャンペーンを張っている中、集団自決の軍命がなかったという真実が明らかになったら、おそらく11万人集会なんか途中で頓挫したに違いない。琉球新報社としては何としてもそれだけは避けたかったのだろう。
前回の冤罪訴訟の敗北を受けての、今回の控訴審判決での完全勝訴の意義は大きい。そして、この結果がもたらされたのは、私たちが孤立しなかったからだ。世界日報が、この問題についてずっと丁寧に取り上げてくれた。それに追随して、地元紙の八重山日報が敢然と琉球新報、沖縄タイムスに対してケンカを売り始めた。さらに、沖縄のナンバーワンブログとして知られる「狼魔人日記」が私たちの裁判を何度も取り上げて支援してくれた。それがなかったら、裁判は勝てなかっただろう。裁判所は世論を重視するからだ。
やはり裁判は勝つものだ。今まで口を閉ざしていた人も、集団自決の真実について語り始めた。今、新しい証拠が手元に集まってきている。これをまとめて日本中に広める活動を開始する準備をしているところだ。真実というのはこうやってじわじわと世の中に出て行くものだ。そして、それが一気に現れるときが近づいているなと感じる。集団自決命令の問題だけではなく、従軍慰安婦、南京大虐殺、靖国神社の問題についても、これは全てに言えるのではないだろうか。