自民「総活躍」を公約化、人口減少で「人」に着目
子育てなど民主と競合も
安倍晋三首相の施政方針演説に「参院選の争点つぶし」の声がでるほど政界は選挙モードに入っている。自民党の選挙公約も詰められようが、既に安倍政権はアベノミクス第2弾で「一億総活躍社会」を打ち出し、輪郭は表れている。
同党機関紙「自由民主」2月16日号1面は、「『一億総活躍社会』を実現」「逢沢一郎党一億総活躍推進本部長に聞く」(見出し)とのインタビュー記事。逢沢氏は冒頭で「デフレ脱却が目前に迫る中、一億総活躍社会は次の3年間への新たな課題であり、安倍政権の『一丁目一番地』、『超目玉』と位置付けられるテーマ」と強調した。
アベノミクス第1弾をすすめて突き当たった問題が、国内総生産(GDP)の伸び悩みで、原因は「消費」と「生産性」にあり、「強い経済」にするために双方の縮小要因である人口減少、生産可能年齢人口減少に対処しようとするものだ。
政府も「50年後も人口1億人を維持」するため政策総動員する「一億総活躍プラン」をサミット前にまとめるが、逢沢氏は党で併行して同本部が「党内の意見集約などの作業をエンジン全開で進め」、「これは、わが党が参院選で訴える公約の柱にもなる」と述べた。参院選の取り組みについて、「なかでも重視しているのは、マンパワーの確保」としている。
つまりは業界対策的な産業振興策より人的要因への着目だ。逢沢氏は、政府に「将来の見通しを明確にするため『希望出生率1・8』と『介護離職ゼロ』という2つの目的達成を重点的に進めるよう求めました」と述べている。これは昨年11月19日に同本部が出した「緊急提言」のことで、アベノミクス新3本の矢(①GDP600兆円②希望出生率1・8③介護離職ゼロ)のうち、まず②③に緊急に取り組むことで①を実現させるように求めている。
その理由を「わが党が政策決定のプロセスで重視しているのは、国民の皆さんの意見に耳を傾け、それを反映させること」として「国民の声」を強調した。②のための子育て支援、③のための社会保障政策が自民党の「一丁目一番地」の公約になることも予想される。
その具体策は、男性も女性も仕事をする時代にあって多様な働き方や格差是正の変革を求めるもので、民主党が公約化を進める「共生社会」と競合する。
かつての自民党の公共事業に「コンクリートから人へ」の標語をぶつけた民主党は、首相施政方針に「争点つぶし」と憮然とした様子だが、人口減少時代、超高齢化・少子化社会にあって政治が直視せざるを得ない時代の変化だろう。
安保法制を除けば、自民と民主の争点は「総活躍」か「1人ひとり」かの選挙標語上の差になろうが、実際はコインの裏表の問題への対処だ。「一億人維持」や「GDP600兆円」などを目標とする国力的観点からの自民党のアプローチ、「1人」の貧困を解決しようとする弱者個々人の目線の民主党のアプローチのいずれが有権者の共感を得るか焦点になる。
解説室長 窪田 伸雄