「日本の子どもの眠りがあぶない!」
千葉県柏市で「『すいみんの日』市民公開講座」を開催
9月3日の「すいみんの日」にちなんで「日本の子どもの眠りがあぶない!」と題した市民公開講座が江戸川大学と柏市の共催で千葉県柏市のアミュゼ柏で開かれた。睡眠不足による子供への弊害、改善への“処方箋”について来場者と共に学んだ。公開講座の最後に講演者らによるパネルディスカッションが行われた。(太田和宏)

パネルディスカッションに登壇した左から司会の江戸川大学社会学部人間心理学科の浅岡章一准教授、睡眠評価研究機構代表の白川修一郎氏、江戸川大学社会学部人間心理学科准教授の山本隆一郎氏、同大学社会学部人間心理学科教授の福田一彦氏、富山大学顧問・名誉教授の神川康子氏
部屋の照明を暗くし入浴は入眠2時間前に
江戸川大教授の福田一彦氏
OECD加盟国の中でも、日本、韓国が群を抜いて、ここ数年、睡眠時間の短い方を独占している。大人の睡眠時間が短いのに、つられて、子供の睡眠時間も、世界的な平均より1~2時間短くなっている。米国睡眠財団の研究では3~5歳で10~13時間、6~13歳で9~11時間が理想的とされる。
こんなに睡眠時間を取っている小学生はいないだろうが、中学生、高校生になると8~9時間が理想だが、日本では高校生で6時間くらいになっていると江戸川大学社会学部人間心理学科教授の福田一彦氏は、睡眠時間が短くなっていることを指摘する。
体全体をつかさどる時計「マスタークロック」は脳の中にある「視交叉(しこうさ)上核」に目から入る光に影響される。夕方や夜に明るい光(蛍光灯・LEDライトなど)を受けると、脳が覚醒され、眠りを遠ざけてしまう。また、食事の時間も内臓などの末梢(まっしょう)器官の時計と関連がある。
普通に食べている朝ごはんを取らないと、次は、昼ごはんになる。その分だけ、時差が生じる。中枢の時計と末梢の時計に、ずれ(内的脱同調)が生じ、さまざまな体調不良の原因になる可能性がある。
子供の寝かしつけに心掛けた方が良いこととして、福田氏は、夜を過ごす部屋の照明をオレンジ色にして、暗くする、暗い部屋で本を読んでも近視にはならない、体温が低くならないと眠くならないので、就寝直前の熱い温度の入浴は避け、入眠の2時間前には済ませる――などを挙げた。
行動性不眠の対処策 入眠までの習慣付けを
江戸川大准教授の山本隆一郎氏
うちの子はなかなか寝ない、という悩みを持つ保護者は多い。子供が寝るのに良かれと思ってする眠りへの関わり方が的外れだったり、眠りへの誘い、過ごし方が間違っていることも多い。子供が眠らないと、親も寝られない、親子ともイライラが募るということになりかねない。
江戸川大学社会学部人間心理学科准教授の山本隆一郎氏は、子供が寝てくれない要因として次の三つを挙げる。①パソコンやスマートフォン、発光ダイオードによる光、長過ぎる昼寝や朝寝坊、就寝直前の入浴などの睡眠衛生上の問題で就寝前に眠気が収まり、覚醒してしまう②子供のむずむず脚症候群や自閉スペクトラム症や注意欠陥多動症など睡眠障害や別の問題が潜んでいる③「○○しないと寝ない」入眠時関連型や寝床に入ると眠ることに抵抗するしつけ不足型の小児の行動性不眠といった保護者と子供の関わり合いが睡眠を妨げている――と指摘する。
小児の行動性不眠への対応として「良かれと思ってする保護者の関わりを見直す」「布団は寝る場所と意識させる」「寝る前の抵抗には、反応しない!」「寝かしつけって『引き算』が大事かも…」などを挙げる。
そして、山本氏は、対処策として①では眠りを誘うよう部屋を暗くする、昼寝を適度に抑える、就寝直前の風呂を避けるなど②では週3日以上かつ2週間以上続く場合は医師に相談する③では入眠まで、夕食→風呂→パジャマ→歯磨き→おやすみのあいさつ→布団に入る、といったルーティーン、習慣付けを作り、寝床では子供の様子を見守りつつも要求に反応しないことを山本氏は勧めている。
生活習慣の適正化は睡眠確保でリセット
富山大名誉教授の神川康子氏
長い夏休みが明け、9月に学校が始まると、夏休み中のさまざまな生活習慣の問題が噴出してくる。スマートフォンの使用やゲームで夜更かし、朝寝坊になり、睡眠習慣が乱れ、寝不足になり、学校でボーっとしたり、居眠りして授業に身が入らない、学校に行きたがらない、いつもイライラしている。
こうした子供の状況に保護者や学校の先生は頭を悩ます。生活習慣の適正化は、まず睡眠からリセットすることをお勧めする。こう語るのは富山大学顧問、名誉教授の神川康子氏だ。
子供たちは、大人の24時間化生活のリズムに引きずられて夜更かしするようになってきている。スマホなどの電子機器から出る青い光を夜に長時間見ていると、脳、体、消化器系の時計が時差を生じさせる。寝ている間に成長ホルモンが分泌され、骨や筋肉を成長させ、体の免疫力を高めたり、病気の箇所を治したりしてくれる。睡眠は心身の司令塔である脳細胞に栄養を補給してくれる。
睡眠負債がある子供は、脳の海馬の体積が小さい。海馬は、記憶を一時保管する場所で、睡眠をしっかり取ることで記憶が定着し、成績も向上すると神川氏は指摘する。
○○君に会うのが楽しみとか、○○を食べるのが楽しみとかでもよいので、期待や希望を持って眠ると、眠りも改善され、寝起きもすっきりする。そうすると、一日の生活サイクルが順調に流れるようになる。