東京で思う故郷の夏
お盆が過ぎ、台風シーズンになると水が冷たくて川で水泳できなくなり、台風が来ると秋の気配が一気に深まる。運動会が開かれる10月10日にでもなれば、最後の種目が行われる頃にはじっとしていると、ガタガタ震えるくらい寒くなる。
幼い頃に体感した故郷(四国)の夏から秋にかけての季節の移ろいだ。
今はどうだろう。四国の田舎より、かなり北に位置する東京にいても、9月はもとより10月、年によっては11月くらいまで真夏のような暑さが続く。いつが春でいつが秋なのか、はっきりしない気候になって久しい。
季節感がなくなったのは自然の移ろいだけではない。夏の盆踊りは続いているが、田舎の本家に親族が集まり、夏の果物や野菜を一緒に食べて夜は花火で遊ぶということもだんだん少なくなっているという。仕事が忙しく、故郷から遠い親族が多くなったというのが現実的な理由だろうが、お盆の風習の中心にあるお墓参りがあまり重視されなくなったことも影響しているのではないか。
お墓参りはわが家でも夏に欠かせない行事だった。都会から帰省した親族と一緒に、サカキと水、コメ、果物、鎌などを持って山の中腹にある「先祖代々の墓」まで登っていく。着いたら墓の周りの草を刈って、墓石を水できれいにし、お供え物を置いて皆で手を合わせてお祈りする。どういうわけか、隣にある大叔父の家の墓には、「そちらは神様だから」といって、手を2回たたいてお祈りするのが不思議でならなかった…。
そんなお墓参りがあったからこそ、家に戻って皆で食べるスイカやナシ、トウモロコシが本当においしかったのだ。
父母を亡くすと故郷が遠くなると言われるが、自分のルーツ、先祖とのつながりに思いがいかない社会になると、親子や兄弟であっても心の距離がどんどん遠くなるのではないか。東京でそんなことを考えた。(武)