児童の権利条約と家庭養育


 児童虐待について専門家の話を聞く機会があった。最近の事件を受けて必要な対策について語られたが、その中で「児童の権利条約」への言及があった。話を聞くまで気付かなかったが、児童の権利条約が国連で採択されて今年で30年、日本が批准して25年になる。

 もともとの条約の趣旨は、主に発展途上国で生命の危険にさらされた子供たちの養育環境を改善することにあったと言われている。そのため条約には子供の「意見表明権」や「教育を受ける権利」などが定められているが、行き過ぎた権利行使に陥らないよう、父母が子供の発達に合った方法で指導する責任と義務にも触れている。

 それでも、子供を大人と同等の権利の主体としている、問題を抱えた条約だとの批判も当初からあった。日本では一部の自治体で行き過ぎた人権を盛り込んだ「子どもの権利条例」が制定され、批判を浴びた。筆者も問題点を記事に書いたことがある。ただ、前述の専門家が児童の権利条約に触れたのは、条約が虐待を受けている子供たちを保護し、最善の利益を守るよう求めているからだ。

 そして、専門家が社会全体で家庭を支援することの重要性を説いたのは印象的だった。子供は家庭で保護され、愛されて養育される権利があるというわけである。

 また条約では、子供の成長のために責任を果たせるよう家族は援助を与えられるべきであるとも述べている。こうした条約の趣旨もあって、3年前に改正された日本の児童福祉法では、子供は家庭で養育されるのが原則であることをうたっている。近年、里親制度が注目されるのも、こうした家庭養育重視の原則があるからだ。

 虐待の問題も含め、子供の養育環境のためには、まず親、家庭が責任を果たせるよう保護、支援する必要がある。社会全体で家庭を大切にする家族政策が望まれる。

(誠)