「聞こえづらいと思ったら」講演会

東京都健康長寿医療センター老化脳神経科学研究チームの柳井修一氏

 平成31年度科学技術週間参加行事「音が聞こえづらいと思ったら-耳寄りな耳の話-」と題した講演会が東京都板橋区の区立文化会館で行われた。東京都健康長寿医療センター 老化脳神経科学研究チームの柳井修一研究員は「耳の構造と音が聞こえる仕組み」「聞こえにくい理由」「聞こえづらいときの対処法」について講演した。

難聴予防は大きな音を避けること
周囲の理解と対応が不可欠

「聞こえづらいと思ったら」講演会

東京都健康長寿医療センター老化脳神経科学研究チームの柳井修一氏

 自然の音は昔と変わらず、流れているけれども、騒音や耳の老化などで、小さな音が聞こえづらくなっているのではないだろうか。人間の体の機能は年齢とともに衰えていく。耳は外耳、中耳、内耳と三つの部分に分かれている。音(空気の振動)が耳介で集められ、外耳道を通って、半透明で非常に薄い、完全防水仕様になっている鼓膜にたどり着く。さらに耳小骨、鼓室などの中耳にたどり着く。内耳は重力を感じる三半規管、平衡感覚をつかさどる前庭神経など細かいパーツとともに、空気の振動である音を電気信号に変換して脳に伝達する蝸牛(かぎゅう)から蝸牛神経を通じて大脳に送り届けられる。

 最近の報告では、耳垢(みみあか)は取らない方が良いという報告がある。耳垢は入り口から1・5㌢くらいまでのところにあり、普通にしていれば、繊毛で外に追い出される。綿棒を使って鼓膜の方に押し込むことになると、栓塞や炎症を起こしたり、ひどい場合には真珠腫性中耳炎などになることもある。耳垢の除去は医師に相談することを勧めている。

 音が聞こえにくい理由には、伝音難聴と感音難聴がある。伝音難聴は空気の振動を伝える外耳・中耳の障害によるもので、鼓膜損傷、中耳炎、外耳道閉鎖症、耳硬化症などがある。左右同時に聞こえなくなることは少ない。

 感音難聴は、音そのものを感じる器官に障害が起こるもので、内耳炎、メニエール病、蝸牛有毛細胞の劣化などが挙げられる。有毛細胞は蝸牛の中にあり、くの字型で三段重ねになっており、一度劣化すると再生しない、高音域に反応する細胞から壊れることで、自分や周囲の人も気付かないうちに30歳代から徐々に悪くなるという特徴がある。

 難聴の予防方法として、大きな音をできるだけ避けることが大原則、イヤホンの音量を上げ過ぎない、工事現場など騒音が大きい環境では耳栓を使うことが重要。日常生活で大きな音を聞かざるを得ない場合は、事後、静かな所で耳を休ませるということも有効だ。

 難聴になった家族に対して、補聴器装着の有無にかかわらず、周囲の理解と対応が不可欠だ。まず、顔を正面へ向けて、静かな場所で、近づいて、分かりやすく・ゆっくりと話してあげる必要がある。聞き返しが多い、話し声が大きい、テレビの音が大きい、など“難聴サイン”に気付いたら、安易に補聴器に頼るのではなく、耳鼻科を受診し、適切な処置・正しい治療法を選択することを勧めている。