フレイルを予防するために
東京都健康長寿医療センター神経画像研究チーム 石橋賢士研究員
『「フレイル」ってなに?~自立した老後を過ごすための予防、診断、対策~』をテーマに東京都健康長寿医療センター研究所主催の老年学・老年医学公開講座が東京都北区の「北とぴあ」でこのほど開かれた。同センター神経画像研究チーム研究員の石橋賢士氏(写真)は「脳のフレイル:加齢によるもの忘れと認知症の違い」について研究成果を踏まえて語った。
「加齢によるもの忘れ」より「認知症」は急激に症状悪化
高齢者の認知症の原因で一番多いのは、アルツハイマー型認知症であり、約50%を占めている。その他、血管性認知症が約20%、レビー小体型認知症が約15%、前頭側頭型認知症が約5%となっている。
アルツハイマー型認知症は脳の中央部の機能が低下し、もの忘れの症状が中心となる。レビー小体型認知症は脳の後方部の機能が低下し、幻視を起こすことが中心となる。前頭側頭型認知症は脳の前方部の機能が低下し、意味の無い行動を繰り返したり、性格が急激に変化することが多い。血管性認知症は脳卒中(脳梗塞や脳出血など)により、脳が損傷を受けたことにより生じる。脳領域のどこで発症するかによって、症状が異なり、領域が広がるごとに、認知機能が極端に低下していく。
病院で診断する場合、MRI検査、CT検査で脳の形、血管の状況を診断し、血管性認知症と診断されることが多い。また、脳の機能を記憶の種類などの問診やテストなどと併せて診るSPECT検査、PET検査でアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症が診断されることが多いものの、100%正確に診断することは現代の医学でも難しい。
健康な100人余の脳機能の変化を8年間を置いてPET検査した結果、意思決定、問題解決、決断力に重要な前部帯状回と、記憶に重要な役割を果たす後部帯状回で機能低下が見られた。車の運転で、若い時と比べると、とっさの判断が鈍くなったり、ちょっとしたもの忘れ、人の名前が出てこないなど、健常な高齢者が感じる衰えを示している。
成人の脳細胞は約1000億の神経細胞があり、20歳から90歳までの加齢変化で10%程度減少するものの、認知機能が極端に低下することはない。しかし、アルツハイマー型認知症では、発症から数年後に脳のMRI検査やCT検査をすると、明らかに脳の萎縮が起こっている。アルツハイマー型認知症では、タウとか、アミロイドと呼ばれる物質が蓄積して神経細胞の消失や脳萎縮の原因になっている。
「加齢によるもの忘れ」と「認知症」の一番の違いは、進行の速度。「加齢によるもの忘れ」の場合、数年たっても、もの忘れの度合いが進行する速度は変わらない。だが、「認知症」の場合、1年で急激に症状が悪化する。早期発見、早期の介入により、薬物療法や訓練、生活習慣の改善によって、進行を遅らせることができる。
認知症について、よく学び、生活習慣を改善し、生活習慣病の予防や食生活の改善・管理、適度な運動、頭の体操、社会交流を楽しく継続することで「認知症」の進行を抑えることができる。






