「筋肉」だけじゃない トップアスリート「脳」
早稲田大学スポーツ科学学術院の彼末一之教授が解説
筋肉は脳からの命令で初めて萎縮して力を発揮する。トップアスリートは筋肉が優れているだけでなく、指令を出す脳の働きも優れている。東京都医学総合研究所はこのほど、都民講座「スポーツ脳科学への招待」を東京都千代田区の一橋講堂で開いた。「アスリートの秘密を脳科学で解き明かす」と題して、トップアスリートにおける脳の働きについて早稲田大学スポーツ科学学術院の彼末一之教授が解説した。
脳内で良いイメージを作り、努力の基に
医学は疾患や障害などマイナスになった部分から正常機能を回復する研究だ。だが、スポーツ科学はトップアスリートが常人ではできない動きをする場面から正常機能を研究している。体操選手は体勢感覚、鉄棒や床、あん馬などの器具に触れる触覚、平衡感覚、視界などから脳内でイメージして、運動神経につなげ、筋肉を動かし、演技につなげている。
子供の頃から良い環境でトレーニングを続けることが大切だと言われている。これは、筋肉だけでなく、脳のトレーニングも大切だということ。まねの上手な選手は、見たもの、感じたものを脳の中で良いイメージにつくり上げ、行動が起こせる。
運動イメージ自体は目に見えないが、運動誘発電位や筋電図の波形を測定することはできる。何かの運動をする、ということは、大脳皮質の運動野(体全体の対応する部分が解明されている)が指令を出し、脊髄の運動神経を経由して筋肉に指令が届き、筋肉運動が起こる。磁気で脊髄を刺激すると筋肉が動く。同じ刺激で同じ運動が起こるかというと、そうでもない。やる気のある時は大きく、無い時は反応が小さい。
磁気共鳴画像装置(MRI)の中でイメージしてもらうと、脳のどの部分が活発に活動しているか、判断できる。検査する人に、ただ、立っていることをイメージしてもらえば、ほとんど血流に変化は見られない。例えば、バック転を体操経験の無い人がMRIの中でイメージしても、脳内の運動野の血流はほとんど変化しない。運動できないことはイメージできない。しかし、体操の内村航平選手だと、運動野の血流が非常に活発になる。
バック転のできない人でも、時間をかけ練習を重ねると、できるようになる。その途上で、MRI内でイメージしてもらうと、徐々に反応が出るようになる。イメージトレーニングは確かな運動・上達につながり、脳の鍛錬も大切だということが判明した。
トップアスリートを育成するには徹底的な英才教育の環境も大きな要因だが、背が高いなど遺伝的な要素もある。また、地方大会から全国大会、世界大会と徐々に階段を上っていくと、段階に応じたハードなトレーニングが必要になっている。それに耐えられるだけの意欲とか忍耐力を持ち続ける「脳」を持つことが、選手の成長の大きな要素となっている。






