マインドフルネスでうつ病予防を
早稲田大学文学学術院教授の越川房子氏
うつ状態にある人は、自分のマイナス面ばかりに目を奪われ、埋没してしまうことが多い。うつを予防するだけでなく、集中力を高めるなど、マスコミやIT企業などで注目されているマインドフルネスが注目されている。ストレス科学シンポジウム(主催・公益財団法人パブリックヘルスリサーチセンター)うつにならない第8弾として「毎日を楽しく過ごすための工夫」が、このほど、早稲田大学小野記念講堂で行われ、科学的根拠、瞑想(めいそう)について早稲田大学文学学術院教授の越川房子氏が語った。
瞑想でマイナス思考をはねのける力を養う
マインドフルネス瞑想は、グーグル、ゴールドマンサックス、ヤフー、インテルなどで職員の精神衛生管理の企業研修に導入され、人間関係のストレス解消、業績を挙げることなどに役立っている。関心の高まりは、脳の構造や機能を改善することが脳科学の分野で有用であることが示されてきていることからだ。
「うつ」の症状は不快さ・嫌悪といった心の不調を抱え、日常のことや仕事上の課題に戻れなくなり、ネガティブなことにとらわれ、眠れない、食べられない、という症状が発症、心の問題になり、深まっていく。
この状態を緩和するキーワードが「注意」である。好奇心を持って注意を集中すると、自動操縦状態の、心の不調の状態から離れることができる。マインドフルネスは単に気を逸(そ)らすというのではなく、目前にある、内外の情報・刺激にアクセスして自分の意識に基づいて、意識的に次の行動を選択することができるようにする「心の状態」を育てることにある。
心理療法におけるマインドフルネス認知療法とは、すべてのことを迎え入れて、それをあるがままにしておくこと、次に何が起こるだろう、という好奇心を持って優しい、穏やかな気付き、注意を向けていることが重要なコツになっている。リラックス技法のように解されているケースもあるが、本質ではなく、副次的なものだ。
脳科学の研究では磁気共鳴画像診断装置を使って、マインドフルネスの効果を研究している。マインドフルネスを継続した人は学習記憶・感情コントロールに関する左海馬や、思いやり、共感に関する側頭頭頂接合部において、灰白質の密度が増加したという報告がなされている。
マインドフルネス瞑想は呼吸によって生じるお腹(なか)の感覚のパターンの変化を味わう。注意がお腹の感覚から逸れたら、何に向いたかを軽く心のノートにメモして、また注意をお腹の感覚に引き戻す。心が逸れることは、こだわりが解けている証拠、価値観にとらわれず、逸れたことに気付き、元に戻ること。
朝起きる時や夜寝る時、布団の中でとか、食事の時、電話がかかって来た時とか、何かをきっかけにマインドフルな呼吸を5回する。繰り返し練習すれば、身に付くもので、瞑想で“心の筋肉”を鍛えることになる。できることから少しずつ、継続することが重要だ。