「うつ病にならない食習慣の科学」

国立精神・神経医療研究センター神経研究所の功刀浩氏が講演

 ストレス科学シンポジウム(主催・公益財団法人パブリックヘルスリサーチセンター)うつにならない「毎日を楽しく過ごすための工夫」が、このほど、早稲田大学小野記念館で行われた。国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第三部長の功刀浩氏は「うつにならない食生活習慣の科学」と題して講演した。

ビタミン類やEPAなどの摂取が不可欠

「うつ病にならない食習慣の科学」

うつ病と食習慣について講演する功刀浩氏

 うつ病はストレス、業績の追求、家庭での問題などが誘因となって発症する。便利になった生活スタイルに深く関わっている。飽食・食の西洋化、車社会による運動不足、ゲームやネットへの没頭で夜型化が進み、複雑に絡み合って悪循環を起こし“隠れストレス”になって、ストレスを増幅してきている。それを跳ね返すためには早寝・早起き、健康的な食事、適度な運動、睡眠など正常な生活習慣を身に付けることが大事になる。

 欧米で話題になっている「地中海式食事」は生活習慣病の改善・予防に効果があるだけでなく、うつ病にも効果があるという報告がある。地中海式食事とは、野菜、果物、種実類、豆類、魚介類、穀類などを中心に摂取する食事で、これらの食品をバランスよく摂取する人はうつ病発症率が低かったと報告されている。国立国際医療研究センターが職域で行った調査があり、それによると、野菜、果物、大豆製品、きのこ、緑茶などを多く摂取する「健康的日本食パターン」の人ほど、うつが少ないことが分かっている。

 西洋化した食事は加工度の高い食品(ハムやソーセージなどの加工肉、ポテトチップス、砂糖など)加工の過程で栄養素(ビタミンやミネラル)が失われがちだ。玄米、発芽米、ふすまが付いている麦、全粒粉の小麦を使った食品、オートミール、挽(ひ)きぐるみのソバなどは精白したものより消化吸収を助ける食物繊維やミネラルを豊富に含んでいる。

 うつ病患者には一部の栄養素の不足が指摘されている。ビタミンB1、B2、B6、B12、葉酸が欠乏すると代謝機能に異常が生じる。必須アミノ酸のトリプトファン、メチオニン、チロシン。また、魚油に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)を十分摂取していると、うつ病になりにくい。鉄分が不足すると、イライラ、集中力の低下を招く。亜鉛の欠乏でシナプス細胞の神経伝達物質の活性化が阻害される。食事やサプリメントでこれらの栄養素を補充するとうつ病だけでなく生活習慣病も改善されることが分かってきた。

 うつ病の治療は心身の休息、ストレスのない環境をつくり、考え方を変える支持的精神療法や認知行動療法、抗うつ剤・抗不安薬などの薬物療法、重症の場合通電療法・磁気刺激療法などが主なものだ。最近、食生活の改善・運動により生活習慣を変えることが自分でできる治療・予防であり、他の療法と同程度の効果があるとされている。