国語の授業力を高める現職教員セミナー
東京学芸大附属小金井小の成家教諭
東京都小金井市の東京学芸大学附属小金井小学校で「高めよう 国語授業力新学習指導要領を具現化するには」をテーマに現職教員研修セミナーが行われた。「大造じいさんとがん」(教育出版)を題材に新学習指導要領における授業化のポイントを押さえた提案授業が行われた。同小学校5年1組の児童34人が担任の成家雅史先生の問いに元気に答えていた。(太田和宏)
本質捉える深い読みに主眼置く
「大造じいさんとがん」題材に
成家先生は「授業のポイントとして文章の要約、大造じいさんの人物像、心境の変化について児童に理解してもらいたい」として、印象、人柄、性格などを含め、児童に「大造じいさんの別の名は」という問い掛けをした。児童たちは短冊状の紙に自分の思いを書き、黒板に貼り付けた。
児童が提示した短冊に「戦略家」とか、新鮮な言葉が入っており、好きな言葉に選ぶと思ったが、そうでもなかった。物語の中での要約という「児童の答え」が出てきた。どこを選ぶか、児童一人一人に聞いた。児童たちは、大造じいさんの気持ちの変化が気になっていたようだ。
児童たちは最初、大造じいさんをセコイ奴(やつ)とか、ズルイ、嫌な人、というイメージで捉えていたが、猟師で、狩りをするのが本職。手当てをしたり、見送る時の「正々堂々と戦おう」ということから児童たちの印象が変わったことを成家先生は語った。
成家先生は「次期学習指導要領で示している『主体的・対話的で深い学び』に誘(いざな)えるような授業を目指したい。理由を関連付けて、発表させたかったが、キャッチコピー的になってしまった面もある。もっと、本質を捉える深い読みに主眼を置くべきだった」と授業後の感想を述べた。
京都女子大発達教育学部の水戸部教授
主体的に複数の場面を関連付け、人物を捉える
京都女子大学発達教育学部の水戸部修治教授は、成家先生の授業の講評として「無目的に、ただ読むということではなく、人物像や物語などの全体を具体的に想像したり、表現の効果を考えたりすること」として本単元を指導する時のポイントについて語った。
一つ目は指導事項はあくまでも思考力、判断力、表現力等の柱で整理した資質・能力を育てること。子供たちの頭の中で、無目的に、何の判断も、思考もなく、人物像を読み取るのではない。何らかの目的に向けて、思考を働かせ、人物を読むのだということ。
二つ目は突然、人物像を、というのではなく、前の時間で登場人物の相互関係、あるいは、心情などの描写、というものを把握している。無目的に内容を把握するのではなく、思考力、判断力、表現力等を育てるという方向性を持って、自分の心に響いた、登場人物の心情を捉えた描写をしたり、自分の考えをまとめたり、さらにそれらを共有したり、目的を明確にした学習を進めていく。
三つ目、突然高学年でというのではなく、中学年には登場人物の気持ちの変化や性格ということに着眼しながら、思考・判断している。さらにさかのぼって、低学年では、子供自身が、場面の様子に着目して、というふうに、系統性を持って、指導していくことが重要なポイントになっている。
高学年の児童が読む場合、ただ、無目的に平板に人物像を捉え、はい、一丁上がりというのではない。中学年で既にやっている、場面の移り変わり、気持ちの変化など複数叙述の複数場面を関係付けながら読む。どこに着眼して人物像を捉えていくか重要になる。
どんな読み方をしているか、ただ単なる気持ちの移り変わりではなく、相互関係に基づく、気持ちの移り変わりを明確にすると、確実に資質・能力を育むために、児童が目的意識を持って読め、じゃあ、次は…と、やる気になる。重要なのは一生懸命考え、自分の言葉を紡いで、作品と対峙(たいじ)しながら読むこと。他の文章を読むときにも展開できる。
どの地域にも、どの学級にも、「ちょっと、あの子にはしんどいでしょう」という児童がいる。一文、一文、細かく、読み取らせても、「先生、もういいよ」となる。ベースになるのは、いろんな意味での読書体験だ。
「カワウソの海」「ぞうのたび」とか、幼年童話を、小学校高学年の児童に向けたら、「先生、オレをばかにしてるの?」となる。そうではなくて、「低学年の児童に読み聞かせするので、どこが、ポイントか、1、2年生の子に紹介したい、低学年の児童に教えてあげて」と言えばその気になる。全体を捉える読書を工夫してあげることも大切だ。