顕微鏡で見る加齢とアルツハイマー病
東京都医学総合研究所脳病理形態研究室 内原俊記氏が講演
都民講座で「暮れなずむ脳の内景」と題して東京都医学総合研究所 脳病理形態研究室 内原俊記氏が東京都千代田区の一橋講堂で講演した。定員500人の会場が満杯となった。
より良い診断・治療法の研究進める
内原氏は「認知症といってもさまざまな種類があり、特徴的症状は、脳のどの部位の病変に対応するのかが臨床診断の基本となる」とした上で、よくあるアルツハイマー病や、レビー小体病は共に頭頂葉病変に伴う認知理解の障害に加え、海馬などの側頭葉病変に伴う物忘れがあり頭頂側頭型認知症のパターンを取ると説明。これに対し、前頭側頭型認知症では前頭葉が担う、意志・思考・意欲などが減退し、自発性低下、異常行動、性格変化、言語障害が表れる、という違いがあるという。しかし、症状だけで両者を区別するのは難しい。癌(がん)の診断は生前にその一部を取り出して顕微鏡で確認できるが、脳を取り出して検査するわけにはいかない。
そこで、亡くなられた方の脳を顕微鏡で観察するとアルツハイマー病脳では老人斑(ベータ蛋白〈たんぱく〉)と神経原線維変化(タウ蛋白)の沈着があるのに対し、パーキンソン病はレビー小体(シヌクレイン蛋白)が神経突起に沈着し、障害を引き起こす。病気といえば、自分の外から細菌やウイルスが入って起きると思いがちだが、ベータ蛋白、タウ蛋白、シヌクレイン蛋白はいずれも自分の体内にある点で、全く異なる。つまり、自分自身の一部が病的に変化して、これらの病気を起こしているということになる。
アルツハイマー型認知症の患者数460万人だが、生前の診断が正しいのはわずか60~70%。パーキンソン病の患者数20万人以下だが、生前の診断が正しいのは75%にとどまるという。新たな治療法の開発が待たれ、その効果を患者で実証するには正確な臨床診断が必須であるが、現状ではまだ診断法にも改善の余地がある。
内原氏らのグループはパーキンソン病やレビー小体型認知症の心臓交感神経が障害されることに世界で初めて注目し、これを臨床的に検出する心筋シンチグラフィーという身体的負担のない検査が、パーキンソン病やレビー小体型認知症の診断に役立つことを提唱してきた。日本で開発されたこの検査法は世界的にも用いられるようになってきたという。現在、認知症の症状を改善する薬剤はあるが、根本的に治療する薬はいまだ開発段階である。
政府が提案する新オレンジプランは、認知症の発症予防については、運動、口腔に関わる機能の向上、栄養改善、社交交流、趣味活動など日常生活における取り組みが、認知症機能低下予防につながる可能性が高いと現実的な見解を示すにとどまっている。
確かに個人個人を見ると、こうした取り組みを積極的に行う人の方が、認知機能低下が起こりにくいという研究は多数あると内原俊記氏は解説し、「今後もより良い診断・治療法の開発に向けて現実的な研究を進めていきたい」と語った。






