「認知症、でも大丈夫」 老年学・老年医学公開講座

「認知症、でも大丈夫」 老年学・老年医学公開講座

講演後、来場者の質問に答える(左から)東京都健康長寿医療センター副所長の遠藤玉夫氏、金丸和富部長、石井賢二部長、粟田主一部長=東京都・練馬文化センター

 超高齢化社会に突入した日本、生活スタイルを考える上で突き当たるのが「認知症」「アルツハイマー病」だ。このたび、練馬文化センターで第146回老年学・老年医学公開講座「認知症、でも大丈夫」と題した講演(主催・東京都健康長寿医療センター)が開かれた。700人余の来場者は「脳卒中の予防で、認知症も予防」「認知症を治す薬はできるのか?」「認知症になっても、幸せに暮らす」という講演に耳を傾けた。

脳卒中科の金丸和富部長

認知症予防に生活習慣病の治療

 最初に、認知症の全体像の説明として同センター脳卒中科の金丸和富部長は「脳卒中の予防で、認知症も予防」という題で講演した。

 認知症の代表的な病気としてアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症がある。アルツハイマー型が特に注目されたため、神経細胞が徐々に萎縮・死滅して治らない病気という認識が広まった。アルツハイマー病はβアミロイド蛋白(たんぱく)やタウ蛋白が神経細胞の回りに老廃物として蓄積され伝達を阻害することによって起こる病。

 また、βアミロイドは血管の動きを悪くし、脳出血を起こしやすくすることも知られている。血圧の管理をすれば、アルツハイマー病、血管性認知症から脳梗塞、認知症へのリスクがかなり軽減できる。脳梗塞、糖尿病、などの生活習慣病の予防が大切である。レビー小体型認知症はαシヌクレインという蛋白質がレビー小体という塊を神経細胞に作る疾患。大脳に拡大すると認知症になる。

 最近は生活習慣病、特に動脈硬化の予防・管理をするための野菜、根菜類、海草類、青魚などを中心とした食事。有酸素運動とともに、脳に負荷をかけること。旅行や料理、音楽会、読書、スポーツを楽しむことで、ストレス解消、糖尿病予防、高血圧予防、神経のごみ・老人斑を防ぐことで、脳血管性認知症だけでなく、アルツハイマー病の予防にも役立つことが分かってきた。金丸部長は「生活習慣病の治療、食事や運動が大切だ」と講演を締めくくった。

研究所神経画像研究チーム 石井賢二部長

症状を遅らせる早期発見・治療

 同センター研究所神経画像研究チームの石井賢二部長は「認知症を治す薬はできるのか?」という題で講演した。
 アルツハイマー病は症状のない時期、物忘れなど軽い症状の時期、認知症の時期に分けられる。最後の認知症になった時期をアルツハイマー性認知症と言い、20年以上の長い年月をかけて脳の変化が進む。

 現在、アルツハイマー型認知症に対して使われている薬は認知症の症状を改善する効果があると言われている。このような薬を「症状改善薬」あるいは「対症的治療薬」と言うが、認知能力の低下が進むのを数年遅らせるだけで、根本的な治療には至らない。

 厚生労働省の調査によると、65歳以上を見ると、年齢が5歳上がると、認知症人数がほぼ2倍に増えている。軽度の段階で治療を開始し、認知症になる年齢を5年遅らせれば、患者数が半分になる計算。早期発見、早期治療が欠かせない。

 ポジトロンCTという画像診断法を使うと、脳にたまったβアミロイド蛋白やタウ蛋白など老人斑の元になる物質に放射性物質のマーカーを付けることで、どこに、どれだけたまっているか画像判断できるようになり、早期発見に役立っている。しかし、老人斑の産生の抑制や分解を強く行えば、別の病気を引き起こす可能性も出てくる。

 石井部長は「アルツハイマー病の原因の解明が進み、病気の進行を遅らせたり、発症を予防したりすることのできる薬の開発と治験が精力的に進められています」と自分の講演を結んだ。

研究所自立促進と介護予防研究チーム 粟田主一部長

認知症高齢者等にやさしい地域

 認知症になった人が、どのように、生活して行けばよいのか、同センター研究所自立促進と介護予防研究チームの粟田主一部長は「認知症になっても、幸せに暮らす」という題で講演した。

 認知症はアルツハイマー病など脳の病的変化があって、認知機能に障害が起き、約束の日時を守れない、友達との会話についていけない、鍵を掛け忘れたり、紛失したり、日々の生活に支障が表れた状態を言う。これらが重なると薬の飲み忘れを含めた体の健康問題、自信を失って「うつ病」など心の健康問題が表れ、不安な状態に陥りやすい。社会活動と疎遠になりがちだ。

 独り暮らしの場合、経済的に厳しくなったり、家族と暮らしていれば、介護とかの負担が大きくなったりする。軽い状態から、さまざまな問題が複合的に重なり、時間の経過とともに、本人・家族にのしかかってくる。

 認知機能が低下しても、状況が複雑になる前に、地域の中でその人を尊重して、その人が必要とする支援を、統合的に利用できる仕組みが必要になる。そういったものがあれば、人生を幸せに過ごすことができる。これを地域包括ケアシステムという。実現できれば「一緒に人生の旅路を歩む人との出会い」を可能する。

 認知症の本人、家族も地域の人も、ふらりと立ち寄ることのできる「カフェ」のような居場所づくりができたら良いと思う。また、認知症に詳しい人、意識を持って本人の立場に立って、生活の支援まで考えてくれる、さまざまな職種の人、コーディネーターも居て、さらに日常生活のことも、手伝ってくれる地域の場、認知症の本人同士も出会い、「こんなことがあったのよ」と、物忘れのことも笑って話せるような場所、雰囲気のある地域づくりが進められることを望んでいる。