量より質の保育の議論を


 「保育園落ちた」の匿名ブログが投げかけた、待機児童を巡る論争は収まる気配がない。政府が一時的対応策を発表すると、今度は保育園を考える親の会が「基準の緩和は子供の安全と発達を脅かし、保育士の負担増になる」と、保育の質の切り下げに反対する要望書を発表した。

 世田谷区など、国の最低基準では安全安心な保育が保たれないと判断し、独自で高い基準を設けているところもある。数のために質を落とせという政府の姿勢に怒るのも無理はない。

 今回、対応策として事業所内保育所の拡充を挙げているが、子連れ通勤の問題や長時間労働が心配される。要望書によると、認可保育園の1園当たりの延長保育時間は71・8分。年々長くなっている。

 小規模保育園の受け入れ人数を増やすというが、小規模保育園は園庭がなく、保育士の基準も緩い。子供が安心して過ごせる、親が安心して預けられる、保育士が安心して働ける、三つの安心が崩れてきていることに保育関係者の危機感は強い。

 親の1日保育体験の活動を行っている松居和氏は保育ブログで「保育園落ちた。活躍出来ない、と叫ぶほど『いい保育士』たちが辞めていく」と書いている。預けたい親が増え、行政や利用者が待機児童ゼロを叫ぶほど、結果的に保育が悪くなり、出口の見えない悪循環に陥る。

 OECD2012年報告は「質を考慮せずにサービスの利用を拡大しても、子供によい成果はもたらされず、社会の長期的な生産性が向上することもない」と指摘する。先進諸国では質の向上が議論の中心にあり、そのために親が保育に関わる「親の参画」を推奨する。

 日本はあまりに利用者本位、経済優先の考え方が強く、保育全体を歪めている。今回の匿名ブログをきっかけに、子供の視点で質を高める議論に向かうことを切望したい。(光)