「教育立国」で危機乗り越える 下村博文前文科相が沖縄で講演

沖縄県専修学校各種学校協会創立40周年記念
下村博文前文科相が「教育再生・日本創生」と題し講演

 沖縄県専修学校各種学校協会(稲垣純一会長)はこのほど、創立40周年を記念して講演会を開催した。記念講演では前文部科学大臣の下村博文衆院議員が「教育再生・日本創生」と題して、日本が危機を乗り越えるためには教育再生し「教育立国」を実現することだと強調した。以下は講演の要旨。(那覇支局・豊田 剛)

重要度増す能動的学修

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講演する下村博文前文部科学大臣=11月30日、沖縄県那覇市のホテル

 政治家になる前、家庭教師の仕事をした。いかに子供のスイッチをオンにし、やる気を出させるかが大切だと気付いた。そして、少し前まで文部科学大臣を務める中で、日本を教育立国にしなければいけないと確信した。

 国家が伸びていくには二つの要素がある。一つは人口増加。もう一つは資源があることだ。日本には両方とも当てはまらず、普通では衰退国家の運命をたどる。そうしないためには、人材育成しかない。急激な人口増加は見込めないため、1を10、100にするため応援する。

 今後、全国民に学び直しの機会が与えられるよう、大学や専修学校が必要になる。仕事を辞めてもう一度、学校に通うことができるようにする。日本が目指すのは教育立国。すべての人にチャンスが広がることが望ましい。

 伸びる学校と淘汰(とうた)される学校の差は、時代の変化をどう乗り越え、波を泳いでいけるかの違いだ。

 日本は現在、危機的状況にある。一つ目として、国際的な存在感が低下している。1990年頃から「失われた20年」と言われている。世界のGDP(国内総生産)に占める日本の割合は2010年の5・8%から50年には1・9%まで低下すると予想される。50年あたりにはごく普通の国になってしまう。

 グローバル化の波にも乗ることができていない。日本の外国人留学生の数はずっと横ばいの傾向だが、日本人の海外留学生は04年をピークに減り続けている。韓国の海外留学生は日本の4倍で、米国では日本人留学生の存在感が少ない。

 経済格差は広がる一方で、親の収入が子供の大学進学に大きく影響している。日本の子供の貧困率は年々悪化している。大学などの高等教育では私費負担が重くのしかかっている。その上、受験テクニックが高度化しすぎているため、地方の生徒の名門大学入学がますます難しくなっている。この状況は日本にとって良くない。

 さらに心配なのは、高校生の自己評価が低く、将来に不安を抱いていることだ。「自分を価値ある人間だ」という自尊心を持っている割合が米中韓の半分以下。「自分はダメな人間」だと思う高校生の割合は1980年の3倍にもなった。謙虚な国民性ということもあるが、自分に自信がなく自己否定感を持っていては伸びるはずがない。プラス思考が人間を伸ばす。

 子供たちの未来は今後も大きく変わる。「今の子供たちの65%は大学卒業後、今は存在していない職業に就く」とニューヨーク市立大学大学院センター教授のキャシー・デビッドソン氏は予測した。英国の経済学者のジョン・ケインズ氏は「2030年までには週15時間程度働けば済むようになる」と言う。現在の職業の多くは今後なくなっていくという前提で、高度知識・技能を身に付けていく必要がある。

 グローバル化が進展する中、少子高齢化を乗り越え、日本が成長・発展していくために必要なのは、世代を超えてすべての人たちで子供・若者を支えることにより、経済状況にかかわらず質の高い教育を受け、一人ひとりの能力を最大限伸ばすことができる社会を実現することだ。

 今後、教育立国となるべく教育投資をすすめ、2020年までに学習指導要領の見直し、知識偏重型の大学入試制度の改革などを実施していく。

 勉強ができれば社会で通用するとは限らない。社会に出れば、①困難や課題を主体的に解決していく能力②創造的・企画的能力③人間的な感性、いたわり、思いやり―が必要になるが、この部分がこれまで大学入学試験で問われなかった。それゆえ、能動的学修「アクティブラーニング」の重要度は増してくる。

 幼児期における教育投資の効果が大きいことは米国における社会検証「ペリー就学前プロジェクト」で明らかになった。質の高い幼児教育を受けることにより、その後の学力向上、所得向上、犯罪率の低下につながるという明確なデータがある。

 また、大学生1人に要する公的な費用と、大学生1人が輩出されることによる社会的な効果(税収増加などの面)を比較すると、約2・4倍の大きな投資効果がある。教育への支出は負担ではなく先行投資と考えるべきだ。教育への投資なくして経済成長はない。これが、将来の社会保障・社会治安などの歳出削減にも貢献することになる。