“助っ人”は金沢市内の大学生たち

日本遺産「能登のキリコ祭り」

担ぎ手高齢化、過疎に悩む

 「祭りの宝庫」と言われる能登半島。今年4月、「能登のキリコ祭り」が文化庁の日本遺産に認定された。これを受けて、半島各所では例年にも増してエネルギッシュな祭礼が営まれた。その半面、担ぎ手の高齢化などで祭りの存続自体が危ぶまれている地域も少なくない。そこで、金沢市内の大学生たちが“助っ人”として参加し、伝統の祭りを盛り上げている。(日下一彦)

祭礼の歴史・伝統学ぶ場に

“助っ人”は金沢市内の大学生たち

学生たちが助っ人として活躍している沖波大漁祭り(穴水町提供)

 文化庁が選んだ全国18件の日本遺産は、認定に当たり、「地域の文化・伝統を語るストーリー」を重視したという。能登のタイトルは「灯(あか)り舞う半島能登~熱狂のキリコ祭り~」となっている。

 キリコとは切子灯籠(きりことうろう)を縮めた呼び名で、直方体の形をした山車の一種で、それに担ぎ棒が組み付けられている。

 認定の概要をみると、「能登ほど灯籠神事が集積した地域は唯一無二」とし、「夏には約200地区で行われており、能登を旅すればキリコ祭りに必ず巡り会えると言っても過言ではなく、それは神々に巡り会う旅ともなる」と解説している。

 しかし、そのキリコ祭りが地域によっては存続の危機に見舞われている。特に山間地や海岸線が入り組んだ海沿いの小さな集落では高齢化、過疎化が進み、祭りそのものの開催が難しくなっている。

 高齢者ばかりで中止せざるを得なくなったり、キリコを担ぐだけの人数が集まらず車を付けて引く地域、さらには苦肉の策として、祭礼の日に田んぼの真ん中にキリコを組み立てて灯りをともすだけの地域も出てきた。県によると、ここ十数年で60余りの集落でキリコ祭りが消えたという。

 こうした危機に瀕する地域催事を守ろうと、5年前に「能登キャンパス構想推進協議会」がスタートした。金沢大学と石川県、さらに輪島市、珠洲市など奥能登の4市町、そして金沢市内および近郊の石川県立大学、県立看護大学、金沢星稜大学で構成され、この地域の活性化を目指して、能登を一つのキャンパスに見立て、学生の教育研究活動や地域貢献活動の場にしようという取り組みだ。

 この事業の中の一つに「能登祭りの環プロジェクト」がある。大学生たちが住民と交流しながら、地域に根ざした祭礼の歴史と伝統、文化を学び、同時に貴重な祭りを支えていくことを目標にしている。

 今年は金沢星稜大学が幹事校となり、夏に100人余りの学生たちが柳田大祭(能登町)や黒島天領祭(輪島市)など、各地の祭礼に“助っ人”として参加した。8月14日、15日の沖波大漁祭り(穴水町)には、同大人間科学部スポーツ科の池田ゼミの学生ら42人が訪れた。

 沖波地区は波静かな七尾湾に面し、人口300人ほどの集落で、能登の他地区同様、高齢化、過疎化が進んでいる。祭りには5地区から1基ずつ計5基のキリコが担ぎ出されるが、例年担ぎ手不足が課題となっている。同ゼミでは池田幸應教授が指導に当たり、毎年祭りに参加し、今年で6年目になる。

 14日午前中、大型バスで41人が同地区にやってきた。早速各地区に分かれ、初日は重さ1500㌔のキリコを地元の人たちとともに40人がかりで6時間余り担ぎ、町内を練り歩いた。

 2日目の朝は祭りのハイライト。立戸海水浴場には5基のキリコがそろい、笛や太鼓、カネを打ち鳴らしながらキリコが海に入り、禊(みそぎ)を受ける。大漁と海上の安全を願うための祭礼で、正午前には終わった。

 参加した学生たちは、「海水に浸かったキリコは、肩にズシリときて重かったが、地元の人たちと一緒に一致団結してやり通す素晴らしさを体験できた」「祭り独特の雰囲気の中で、初対面の人とも仲良く出来た」などと感想を述べている。地元では「若い力は頼もしい限り」と歓迎する。

 池田教授は「祭りを通して、自分たちの活動が地域に役立っているとの自信を感じて欲しい」と語った。さらに「地域の人たちと触れ合うことで、地域の現状を知り、さらに学生たちそれぞれのふるさとの素晴らしさと課題を知って欲しい」と、教育的意義を強調した。