会津大学で「先端ICTラボ」運用を開始
情報通信技術のグローバル拠点を目指す
福島県の国公立大学で、情報通信技術(ICT)専門の会津大学(会津若松市)では、「先端ICTラボ」(略称・LICTiA=リクティア)がこのほど完成し、10月から運用を開始した。行政機関、国内外のICT関連企業、地元ベンチャー企業などと連携・協力し、先端技術の実証や人材育成のほか、国際的競争力のある新たなビジネスモデル、新産業創出の支援を目指す。(市原幸彦)
新たな産業創出の実験場に
会津大は東日本大震災後、ICTを中心に復興へ貢献してきた。その実績を踏まえ、平成25年3月に「会津大復興支援センター」を開設。その中に多業種による「会津産学コンソーシアム」を結成した。「従来型の〈1対1〉ではない、コンソーシアム参加企業による〈多対多〉の新しい産学連携体制。先端ICTラボはその中核施設です」と事務局。
鉄骨3階建てで延べ床面積約1570平方㍍。整備事業費は約12億5000万円(うち10億円は国と県の補助)。研究スペース、産学官の交流スペース、研修・教育スペース、データセンタースペースなど、多彩な機能を備えている。
施設やサービスごとに使用料を設定し、利用予約を受け付ける。現在、地元ベンチャー企業など5社と市情報政策課が入居している。
事務局によれば「先端ICTラボ」によって、主に三つの事業を進めていく。「第1は、先端ICT研究事業の推進。企業との共同研究、国や県のプロジェクト等の外部資金の獲得を図りながら、ベンチャーと組むなどして事業化を目指します」。
第2は、イノベーションを生み出すための「場」の提供だ。「1階のフリースペースで、教員や学生、民間企業、ベンチャー、行政関係者などいろんな方に来ていただいて、それぞれのニーズとシーズ(研究の種)をぶつけ合って、新たな組み合わせを考える。企業の製品化や教員の研究テーマなど、新しいイノベーションを生み出すような、喧々諤々(けんけんがくがく)としたフリートーキングが出来るような場です」。
すでに実績もある。「先端ICTラボ」開設以前だが、消火栓の位置を表示するアプリを開発したときのこと。「大学教員を含めた活発なトークの中で、市民の消防団の方が、他の地区への応援のとき消火栓の位置が分からないと言うと、行政の方が情報は提供できる、ではスマホのアプリに仕立てようとベンチャーさんが提案し、実現しました」。
第3は、ICT人材の育成と集積だ。学生や社会人など、市場ニーズやスキルに応じた講座や養成事業を大学や民間企業が用意。「人材を育成することで、企業が会津や福島県に進出してもらう際の受け皿づくりの応援にもなる」。
会津大学は平成5年、日本最初のコンピューターに特化した大学として誕生。大学院生も含み現在約1300人の学生、約110人の教員がおり、コンピューター分野では国内最大。各国から招かれた外国人教員率は約40%という理工系ではナンバーワンの国際性も特長だ。英語を公用語とし、大学院での授業は全て英語で行われている。昨年9月、文部科学省のスーパーグローバル大学に選ばれた。
県は現在、耕作放棄地の有効活用、森林水産資源の管理、東京電力福島第一原発事故の収束に向けた技術開発など1~3次産業にまたがる課題に直面している。このため同大はICT関連企業だけでなく、最先端技術と縁遠いと思われがちな業種や地場産業の事業所、団体にも積極的な利用を呼び掛けている。
「物流、農業、観光方面など、いろんな可能性があるのでは。市情報政策課が持っている豊富な行政データなどとのタイアップも今後の大きな課題です。ICTに詳しくなくても、アイデアを受け付け、新しいビジネス創出を支援します」
問題点としては、卒業生の8割が県外に就職していることだ。「やはり企業が会津や福島へ進出しやすいように、いろんなレベルの人材を育成すること。ネット時代なので、地価の高い東京でなくてもビッグデータの解析など地方を拠点にできることは多いし、環境もいい」。
今後について事務局は「地元の企業、地場産業を含めたベンチャー、大手のICT企業、他の研究機関との連携も今後の大きな課題。国や県の施策とタイアップしながら、会津大の得意分野で復興に寄与していきたい」と意欲をみせている。