地域復興の担い手を育成 東北大のカタールサイエンスキャンパス

小中高生が科学実験体験

 東北大学工学部(仙台市)では、カタール国が東日本大震災復興支援のために設立した「カタールフレンド基金」(QFF)を活用して、地域の子供たちが最先端のものづくりや科学を学べる「カタールサイエンスキャンパス」を昨年7月から開始した。これまで目標を超える1万人以上の参加者があり、長期的かつ持続的な知的モチベーションを獲得する場として期待されている。(市原幸彦)

開始から1万人超が参加

東北大のカタールサイエンスキャンパス

体験型科学教室「宝石の研磨加工教室」に、Mipox(マイポックス)社員が講師として参加した(Mipox社提供)

 この事業は、宮城県の小学生、中学生、高校生を対象に、東北大学大学院工学研究科・工学部がものづくりや科学実験に関連するイベントを行うプロジェクト。将来の新産業創出を担う技術者や科学者を養成すること、地域の大学や地域企業への訪問を通じて、地域復興を担う人材を育成することを目的としている。

 施設として整備されたホールは延べ床面積約650平方㍍。主な設備は、360度投影できるパノラマスクリーン投影システム、音響システム、3Dプリンター、5軸マシニングセンタ、太陽光パネルで発電した電気を利用する植物工場、地中熱を利用した空調システムなど。

 パノラマスクリーンは、複数台の高解像度プロジェクターと映像のブレンディング技術を用いて四方を映像に囲まれた空間整備を実現。このような先導的な視聴覚設備を有する施設は、アミューズメント施設などの導入例にとどまり、大学内での事例は少ない。

 たとえば、工場の全景から加工機が並ぶ様子へズームインし、さらに刃物が材料を削っているリアルな様子、切削作用における原子・分子のイメージ画像を投影することで、子供たちに加工のより具体的なイメージ定着を促すことができる。また、複雑な形状を作るe-マシニングの加工の様子を、リアルに見せることもできる。

 これらを利用した体験型教室では、光通信手作り実験、宝石の研磨加工、LED工作、AMラジオ組立て、3Dプリンター等を用いた最先端ものづくりなど多様なことが学べる。その他、サイエンスキャンプ、次世代エネルギー技術の体験型科学学習、サイエンスショー、大学の各施設の体験型見学(ラボツアー)、世界最先端研究に触れる機会が多数提供される。協力機関は宮城県教委、仙台市教委、NPO法人natural scienceなど。

 全国からの企業も多数協力。たとえば昨年8月に「宝石の研磨加工教室」にMipox社(東京)の社員が講師として参加。原石が研磨によって輝きを増していく様子を子供たちに体験してもらった。先月末の「わくわく科学教室~カメラオブスキュラを作ろう」(オリンパス株式会社協力)に石巻市の小学6年生53人が参加。結像やピント合わせなどレンズの働きを楽しみながら学んだ。

 先月末、カタールの外務大臣を迎えてオープニングセレモニーが催され、里見進東北大学総長が「学校では体験できない科学実験やものづくり、世界最先端研究に触れられる。子供たちが科学やものづくりに興味を持つきっかけを作り、地域への理解と愛着を深め将来活躍する日が来ることを願っている」とあいさつ。ハリッド・ビン・モハメド・アルアティーヤ外務大臣は「子供たちは将来発展の鍵。新しい地域産業を担う次世代の教育者や技術者が育つことを願っている」と祝辞を述べた。

 児童代表の樋口歩美さん(小学5年生)が「念願だったAMラジオを作成でき、学校にはない電子顕微鏡で昆虫を観察できた。ミクロの世界に驚いた。この施設を活用して多くのことを学び、社会に役立つ人間になりたい。学都仙台のシンボルである東北大学に小中高生が学ぶことができたことを嬉しく思っている」と、感謝の言葉を述べた。

 同ホールは、2014年度グッドデザイン賞(公共用の空間・建築・施設部門)を受賞。情報通信技術(ICT)が進み、大量の情報に触れても個別性の高い体験・体感に触れる機会が少なくなっている中、インパクトの強い視聴覚環境を持つこの施設は未来社会の創出にむかって、長期的かつ持続的な知的モチベーションの獲得に貢献してほしい、と審査委員から期待された。

 このプロジェクトでは今後、カタールの小中学生約20人を体験型科学実験教室や自然体験に招請することも検討中という。同ホールのサイエンスコーディネーター石垣富一郎さんは「昨年度は7月から始まったので情報発信が十分でなかったが、復興プロジェクトとして認知度も高まっているのを感じています。今年度はより発展的に取り組んでいきたい」と意欲をみせている。