異才発掘プロジェクト「ROCKET」始動
日本財団と東大先端科学技術センターが協力
集団生活や画一教育を中心にした学校生活にはなじめないが、特定分野に豊かな才能を発揮する子供は少なくない。他人とのコミュニケーションが苦手でも、飛び抜けた能力の持ち主に、一流の講師陣による教育の機会を与え、社会におけるイノベーションの牽引(けんいん)役を育てることを目指すプロジェクトが始動し、注目を集めている。名付けて「異才発掘プロジェクトROCKET」。日本財団と東大先端科学技術センターが協力して進めている。(池永達夫)
豊かな才能伸ばしリーダー育成
不登校生らに専門家が特別授業
東京・駒場の東大先端科学技術センターで、昨年12月10日に行われた同プロジェクトの開校式。日本財団の笹川陽平会長が「下村博文文科大臣の御子息もディスレクシア(学習障害)だったが、ロンドンに留学し今では水を得た魚のように舞台芸術で活動している」と、スカラー候補生15人を励ました。
このプロジェクトの第1期生は小学3年から中学3年までの男子14人と女子1人。全国601人の応募者から作文と面接で選ばれた。
漢字は書けないが、独創的な方法で農業に従事する小5児童。週2、3日だけ登校し後は水族館に通い詰めている爬虫(はちゅう)類好きの小4児童。そして、集団行動に困難を抱えるが、ピアニストの登竜門と言われるコンクールで最高位の成績を収めた中2生徒など。完全不登校か部分不登校、あるいは登校していても学校の授業内容に物足りなさを感じている子供たちだ。
プロジェクトの狙いは、突出した才能を持ちながらも学校生活になじめない子供たちに、その長所を伸ばすための教育機会を与えること。発明王エジソンが小学校を中退し、ノーベル物理学賞を受賞したアインシュタインも学校から退学を勧められるような子供だったことはよく知られている。
同センターの中邑賢龍教授(ディレクター)、近藤武夫准教授(サブディレクター)らが運営スタッフとなって、同センターの教授陣や各分野のトップランナーによる特別授業、実業(農業・調理・大工など)を介した学びの場を設けるほか、オンラインで質問に答えるなど個別指導を行う。月1回程度の授業が2月から始まる。
スカラーのほか、各地でのセミナーに参加するホームスカラーの制度もある。日本財団が運営資金として5年間で5億円を積み立てる。
日本の教育はオールマイティーで協調性に富んだ人材育成には優れている。その一方、突出した才能を伸ばす教育が欠如すると指摘されている。また、既成概念を破る革新的な発想を生み出す教育環境が十分に整っていないため、イノベーションも起きにくい。
昨年8月、プロジェクトに関心を持つ父母らを集めて行った説明会(同センター)で笹川会長は次のように語った。
「日本人は集団生活が好きですから、集団生活の中の枠にはめ込もうとする考え方がある。…しかし、現代のようにスピードの速いイノベーションの時代においては、画一的な教育のもと、鋳型の中で育てられた子供だけでは、日本のイノベーションは起こらない」。将来の日本をリードし、イノベーションをもたらす人材育成もプロジェクトの目的だ。
開校式の特別講義を担当したのは、同センターの高橋智隆・特任准教授。ロボットクリエーターの同准教授は「意識しない動きが難しい。待ちぼうけだとか、ため息や嘆息、がっかりした姿などだ。私が作るのはキャラクターロボットだ。人型ロボットというのは、おばけのようで脅威に感じる。むしろロボットは、人と機械の中間位置にいたほうが安心感がある」と、専門家ならではの内容を分かりやすく語った。講義は一方的なものではなく、何度も子供たちから手が挙がり、質問や反論が繰り出された。
さらに、この日、目を引いたのは同センターの福島智教授。目が見えず耳も聞こえないという障害を抱えながら、東大で初めて教授にまで上り詰めた盲聾(もうろう)の師。15人を前に、同教授は高い声で「自分の人生は自分で切り開け。そして失敗したら人のせいにするな」と力強く語りかけた。