「自分を見つめ、自分を描く」 金沢ふるさと偉人館で自画像展
水彩絵具やクレヨン、鉛筆、貼り絵、さらにパソコンを使って描いた顔、顔、顔……。金沢市の金沢ふるさと偉人館(輪島道友館長)で開催中の「自画像展-自分を見つめ、自分を描く-」だ。今回で第7回を数え、幼児から中学生まで1100点を超える全応募作品が展示されている。自分の顔をじっくり眺めて、それを描くことは少ない。自画像を描くことは、子供たちにとって自分自身を見つめるきっかけにもなっているようだ。(日下一彦)
幼児から中学生まで1100点
同館1階フロアの壁や特設パネルには、子供たちが自由な作風で思い思いに描いた自身の顔がズラリと並んでいる。画材はクレヨンや水彩絵具、鉛筆、貼り絵、さらにパソコンで描いた作品など多彩で、これだけ個性豊かな顔が並ぶと実に壮観だ。全国的にも極めてユニークな作品展となっている。
これらの作品は、「よく知っているようで未知な自分、自分とは何ものか。自分を見つめ、自分を描く。今の『自分』を描いてください」をテーマに、同館が昨年11月、市内の幼稚園や保育園、小学校、中学校に募集した。
幼稚園・保育園18園、小学校、中学校それぞれ5校、それに美術教室や個人の応募など、2歳の幼児から中学3年生まで1165点が寄せられ、全作品が展示されている。どれも画面をいっぱいに使って伸び伸びと描き、子供らしい夢のある作品ばかりだ。
同展を発案したのは前館長の松田章一さん。東京芸術大学で大学創設以来続いている卒業制作の自画像をヒントに「子供たちも自画像を描くことで、自分を見つめるきっかけになれば成長にもつながるのでは」との思いから始まった。
展示は年少、年中、年長組の順に小学校低学年から高学年と続き、そして中学生の作品で構成されている。それぞれの年齢で線や色の使い方に特徴が表われ、また笑ったり泣いたり怒ったりの喜怒哀楽の表現の仕方も違い、その成長過程が一目瞭然で興味深い。
2歳児ではたどたどしい線で顔の輪郭を描いたり、目や鼻をつけるのが精いっぱいのように見えるが、懸命に描いている様子が見えてくるようで微笑ましい。
年齢が上がるにつれて、顔の特徴や髪型などを上手に捉え、自身への観察力が深まっていることがうかがい知ることができる。年中組になると、顔の表情がより詳細に描かれ、髪型も三つ編みや束ねた髪がはっきりしている。また、耳に特徴のある児童はそれを巧みに描くなど、観察力も深まっている。
小学校の中・高学年になると、汗だくの表情を描いたり、大粒の涙を流して泣いている様子など、作風がますます多彩になっている。さらに、1点1点見ていくと、おとなしい性格が連想されたり、明朗活発な姿や茶目(ちゃめ)っけたっぷりの気性などもうかがえ、これが自画像展の良さでもあるようだ。
しかも、学年が上がるにつれて、自分自身を見つめる度合いが深まり、作風も頼もしくなっていることが分かる。小学生の作品の中には、画用紙を2枚、3枚縦につないで、そこに等身大に近い自身の姿を丁寧に描くなど工夫を凝らした作品も出展され、美術指導の先生たちの力の入れ様が伝わってくる。
また、版画で描いた作品やパソコンを使って、柔らかいイラスト風に描いた作品も出展され、作風は毎回幅広くなっている。中学生の作品は美術部の生徒が主だが、水彩や鉛筆でしっかりとしたタッチで描き、鑑賞する人を魅了する。中には、新聞紙をちぎって張り紙にして背景に使うなど、手の込んだ作品も見られ、子供たちの豊かな才能に触れることができ感銘を受ける。
展示作品の中には、赤いシールを貼った入選作がある。金沢美術工芸大学の前田昌彦学長、金沢21世紀美術館の秋元雄史館長、金沢市の野口弘教育長ら5人の審査員が、幼児・小学校・中学校の部門別に385点を選んだ。
さらに「これは!」と各審査員が心引かれた作品を2点ずつ選び、計10作品が「大賞」として展示ケースに特別公開されている。
今月10日、同館で行われた表彰式には、保護者や祖父母らが鑑賞に訪れ、子供たちの作品に目を細め、盛んに画像に収めていた。受賞者の一人で保育園年中組の母親は「園の先生のお話ですと、自分で鏡を見てニコニコしながら描いていたそうです。お絵描きが大好きなので、とても良い思い出になります」と微笑(ほほえ)んでいた。同展は今月25日(日)まで。