石狩海岸は自然の植生残す“宝”
「いしかり海岸ファンクラブ」がフォーラム
護岸工事や波の浸食などで年々狭められていく日本の砂浜。そうした中で日本海に面した石狩海岸にはおよそ25㌔㍍にわたって天然のカシワの森を有する砂浜が続く。約180種類の海浜植物と150種類の鳥類が生息する同海岸は地元の人にとっては貴重な“宝”。こうした自然資源を地元の力で守ろうと、市内のボランティア団体が海岸フォーラムを開催した。(札幌支局・湯朝 肇)
地元に寄り添う保全活動を
「札幌よりも古い歴史を持ちながら、小樽市銭函から石狩市厚田まで約25㌔㍍の砂浜が続く石狩海岸。砂浜本来の姿をとどめた貴重な自然海浜をどうやって守っていくか、今日は皆さんと考えてみたいと思います」
11月8日、札幌市内で開かれた「いしかり海浜ファンクラブ」主催の「石狩海岸フォーラム」で同クラブの石山優子会長がこう語ってあいさつした。
フォーラムを札幌で開催するには理由がある。石狩市は札幌市に隣接する。海を持たない札幌市民にとって優良な砂浜を持つ石狩市は夏の海水浴やキャンプ、釣りなど最適なアウトドアランドとなっている。
当然、地元市民よりも人口の多い札幌からの利用者が多いが、不法投棄やゴミの散乱など自然破壊、景観を損なうケースが後を絶たない。「隣接する札幌市民に石狩浜の現状とその良さを広く知ってもらいたい」(石井滋朗事務局長)というのが札幌開催の大きな理由だ。
フォーラムは今年で2回目。最初に北海道大学大学院農学研究院講師の松島肇氏が、フォーラム開催の経緯と意義を説明。とくに石狩海岸の持つ特異性について訴えた。「自然海岸の広義の意味での定義は海岸並びに沖合に人工構造物がない海岸のこととなっているが、これだと波の影響を受ける範囲の海岸が自然状態であれば、海岸の後背地である海岸陸域が開発されていたり、植林されていても自然海岸となる」と指摘。
さらに、石狩海岸については「本来の自然の砂浜海岸は、海から陸にかけて植生が自然に草本から木本へ徐々に移行(エコトーン)している海岸全体をさす。そうした環境を残す海岸は全国でも数が少なく、その意味で石狩海岸は希少な海岸。周辺に220万人を超える札幌圏を抱えながら、これほど自然度を高めているのは奇跡的なことだとさえ言える。その一方で、オートバイやバギー車が浜を荒らし、海浜植物の生育に支障をきたす状況も見られる」と語った。
この日のフォーラムではNPO法人くすの木自然館代表理事の浜本奈鼓氏が「小さな海岸の大きな取り組み」と題して基調講演を行った。浜本氏らは1990年代後半から鹿児島県錦江湾にある重富干潟の自然を守るために活動を続けている。
その実践範囲は広く大学や民間研究機関と連携した実地調査、学校や市民を巻き込んだ自然観察会や体験学習、外来魚駆除などの環境保全、周辺地域住民との話し合いを重ねている。2012年3月には錦江湾最大の干潟である重富干潟は「霧島錦江湾国立公園」に指定された。
講演の中で浜本氏は「私は石狩海岸を国立公園にすべきだというような提言はするつもりはありません。ただ、自然が大事だから規制をかけて人間が入ることのできない空間をつくるのではなく、人間も自然の中に入って自然の素晴らしさを実感し、その上で環境を保全していく道を探っていくのが最良の道ではないか」と語った。
基調講演後のパネルディスカッションでは、浜本氏も加わって石狩浜定期観察の会代表の安田秀子氏、元石狩浜海浜植物保護センター職員の内藤華子氏、石狩ウォーターパトロール代表の坂口友則氏など石狩浜の自然環境を保全するボランティアグループの担当者が「海辺の自然を生かした環境保全と地域づくり」をテーマに議論を交わした。
この中でパネリストから「札幌市民はもとより石狩市民に石狩浜の環境を認知させるにはどうしたらいいか」という課題が提示された。浜本氏は「地元の市民が石狩浜に何を期待しているのか、という問題を丁寧に何度も聞くことが重要ではないか」と答えるなど、美しい自然を守り続けるには、地元の人々とともに、寄り添って活動していくことの大切さを訴えた。







