43年続く「ふるさとのツバメ総調査」

石川県内の全小学6年生、自然保護の心芽生える契機に

 小学6年生による「ふるさとのツバメ総調査」を昭和47年から毎年実施する石川県。今年で43回を数える調査は、身近な野鳥を観察することで、自然環境に対する子供の理解を促そうという取り組みだ。巣作りや子育ての様子、地域住民のツバメへの愛情に触れ、自然保護の心が芽生える契機になっている。(日下一彦)

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輪島市内でツバメの生息調査する小学生たち(輪島市PTA連合会提供)

 「ふるさとのツバメ総調査」を実施する石川県健民運動推進本部はこのほど、第43回の調査結果を公表した。全県レベルでツバメの生息数を調査しているのは同県だけだ。

 今年は県内の全公立小学校221校の6年生を中心に約1万3000人が参加し、愛鳥週間(5月10~16日)の期間中、1日を使って行った。3、4人が1グループとなり、各小学校の校区内で割り当てられた調査地域を、ツバメ調査票を持って巡回した。

 調査票には親鳥の数や使用中の巣の数、場所、古巣の数などを記入する。同時に、地域の人たちのツバメに対する思いを聞き取り、記録に残す。今回の調査で確認できた親鳥は1万3414羽。3年連続の増加だった。

 同推進本部は、「春先が寒かったり、児童の調査した日が雨だったりすると、ツバメの数に影響する。調査後に営巣し始めたという報告もあり、調査結果がそのままその年の全ての生息数ではない」と断りながらも、毎年、同時期の継続調査は「生息動向を知るうえで貴重な資料になっている」と分析する。

 高度経済成長期には、県内でも大気汚染や水質汚濁、自然の乱開発が相次ぎ、豊かな自然が失われてしまうのではないかとの危機感が高まった。その対策の一つとしてスタートしたのがツバメ総調査だ。ツバメの観察を通して子供たちに身近な自然について学んでもらおうとの趣旨だった。

 43年間の調査経過をみると、成鳥数が最も多かったのは昭和61年の約3万7000羽。現在はその3分の1に減少。使用中の巣の数もピーク時の半分に減っている。ツバメは空中を飛ぶ虫をエサにするので、虫が発生する水田や水辺など採食場所が欠かせない。このため、都市近郊の農地が宅地化されて住宅街に変わると、数は少なくなる。

 また、ツバメが営巣できる農家の軒先などが減ったり、防犯上、日中戸締りする家庭が増えると巣は作れない。さらに、滑りやすい材質の外壁だと巣は作りにくい。人間の住環境の変化は、ツバメの巣作りを年々厳しくしている。

 調査の教育的効果は、子供がツバメの生態を間近に観察できるとともに、地域の人たちのツバメに注ぐ思いに直に触れられることだ。多感な時期に、この調査に参加することは自然保護への心が芽生える契機にもなっている。感想文の中から幾つか拾ってみよう。

 ツバメが「田んぼからドロやワラをくわえてきて巣を作っている」のを見て驚いたり、「ツバメの親がヒナに一生懸命エサをあげているのを見て、親子の絆が深いと思った」と素直な感動をつづっている。また、「田んぼの虫を食べてくれるいい鳥なので、たくさん来てほしい」と、益鳥との認識を新たにする子供も。

 さらには、天敵のカラスから守るため「巣の下にCDをぶら下げていた」「巣が落ちないように板をつけてある」「ツバメが来る時期は車庫のシャッターを開けたままにしておく」など、地域の人たちがツバメを保護する姿を見て、「ツバメを大事にしてくれる人がいっぱいいてうれしかった」と感動を表現。そして、「毎年巣作りするのは、その家の人が優しいから」「巣のある家の人は、ツバメを子供か孫のように可愛(かわい)がっていた」など、子供たちがツバメを大切にする心を感じ取っているのが分かる。

 ツバメと“フン害”は付きものだが、フンが落ちて床が汚れるのでツバメを歓迎しないと語る人に出会い、「歓迎しなくてもいいから、生き物を大切にしてほしい」と訴える子供。中には、「調査前はフンが嫌で巣を作って欲しくないと思っていたけれど、調査してツバメは大切だと分かった」と心の成長を感じさせる内容や「ツバメのフンを肥料にしている」という農家では、「納屋に68個の巣があった」と驚きの報告もある。

 その一方で、飛んでいるツバメはたくさん見たが、「軒下の巣は全部古巣で悲しかった」「2、3年前に巣に侵入したヘビにヒナを食べられ、翌年から来なくなった」など、自然界の厳しい現実に触れた子供もいた。また、「人が住んでいる所にしかツバメがいなかった。人が住まなくなったらツバメは来ていません」など、人間の暮らしとツバメの貴重な関係に気付いた例もあった。

 ツバメ調査は子供たちの親世代も体験しているので、親子共通の話題になる。「昔はたくさんいて調査がたいへんだった」と聞かされ、家族ぐるみで環境保護を考えるきっかけにもなっている。