人間力を育む教育フォーラム、北海道江別市で

創立75年迎える北翔大学が開催

 今年創立75周年を迎える北翔大学・北翔短期大学(西村弘行学長、北海道江別市)は、このほど札幌市内のホテルで「人間力を育む教育フォーラム」を開催し、有識者を招いて芸術教育の重要性や少子高齢社会における人材育成について論議した。(札幌支局・湯朝 肇)

教育に必要な倫理的視点/指導者は文化の重要性認識を

人間力を育む教育フォーラム、北海道江別市で

「少子高齢社会が求める人材育成」をテーマにしたパネルディスカッション

 「複雑多様な社会にあって、人々が求めているものを短い言葉でいうとすれば“健康”と“癒やし”を挙げることができるでしょう。当大学では、そうした社会から求められる専門性をもった人材を一人でも多く輩出していきたいと考えています」

 札幌市内で開かれた北翔大学・北翔短期大学主催の「人間力を育む教育フォーラム」(以下フォーラム)の中で、西村弘行学長はこう語って同大学が目指す人材育成の方針を語った。

 同大学は昭和14年(1939年)、「女性の社会的地位向上と女性にふさわしい職業的技能と教養を身に着けた社会人を育成」を建学の精神に「北海道ドレスメーカー女学園」としてスタートした。創立当時はわずか5坪の教室に学生は昼間部、夜間部合わせてわずか20人だったという。

 現在は、生涯スポーツ学部と教育文化学部の2学部5学科を有し、スポーツ教育や健康福祉、さらに芸術、心理カウンセリングなど独自の分野で専門性の高い人材を養成しているのが特徴だ。

 フォーラムのサブテーマは「少子高齢社会が求める人材育成」。第1部の基調講演には劇作家、演出家の平田オリザ氏を講師として招いた。平田氏は「人を創り、街を創る~芸術文化教育の可能性」と題して講演。第2部では、同大学の教授陣がパネルディスカッションを行った。

 この中で、平田氏は「近年、どの地方都市に行っても、郊外の風景が画一化し、中心市街地が衰退している。これは20年ほどで、消費社会と金融経済が日本中に拡散した結果である」と指摘した。

 また、岩手県出身の詩人・宮沢賢治の『農民芸術概論綱要』の中にある「かつてわれらの師父たちは乏しいながらもかなり楽しく生きていた。そこには芸術も宗教もあった。いまわれらにはただ労働が、生存があるばかりである。宗教は疲れ果て近代科学に置換され科学は冷たく暗い」を引用し、芸術による文化政策の重要性を訴えた。

 その上で、「現在、貧富の差という格差社会が教育の歪みを生み出していると問題になっているが、文化的な格差をも生んでいる。芸術的な感性は若いうちに身に付けなければならないが、それが平等に受けられない社会であってはならないはず。そのためには、社会や政治を動かすリーダーが文化の重要性を認識することが大事。何よりも、文化は社会を包摂する力を持っていることを知ってほしい」と強調。文化に彩られた町はそこに住む人々のつながりを強くすると訴えた。

 第2部では、少子高齢社会における地域の在り方、求められる人材について議論を交わした。同大学大学院客員教授で札幌芸術の森美術館の前館長、奥岡茂雄氏は人間教育における芸術教育の重要性を指摘した。

 「美的教育とは、幅広く物事を受け入れ想像力をいっぱいに働かせること。美しさや情緒、人間や自然の尊さ、こころの価値を感じさせることができる。知情意のバランスをはかる上でも極めて重要だ」と述べた。また、美術館で美術にじかに触れること、特に美術館のスタッフとの対話が効果的であると訴えた。

 一方、社会福祉法人北海長生会常務理事の三瓶徹氏は、これから到来するであろう福祉社会に対して提言。「介護・福祉に対する人材養成の期待はかなり大きくなっていきます。そうした中で、制度をどうするか、ということよりもまず、福祉・介護に携わる人間の感受性や気遣い、共感能力を高めること。そうした教育が重要になってくる」として、そのためにも教育の中により一層の倫理的視点が要求されることを強調した。

 近年、私立大学では、首都圏などの人気大学と地方大学との間に2極化が進んでいると言われるが、今回のフォーラム参加者は「何よりも大切なことは地域がどのような人材を求めているか、をしっかりと見つめること」の重要性を確認した。